スティーリー・ダン Aja作曲術と作詞法

制作 : 冨田恵一 
  • DU BOOKS (2012年9月12日発売)
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感想 : 7
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スティーリー・ダンの最高傑作にして、「20世紀における最良のポピュラー・アート」(本書の見出し)の一つでもある名盤『彩(エイジャ)』の研究書。ドナルド・フェイゲンをはじめとした当事者たちに取材した音楽ノンフィクションでもある。

著者のドン・ブライトハウプトはカナダのミュージシャン/ソングライターでもあり、「モンキー・ハウス」という、もろスティーリー・ダン・フォロワーなバンドもやっている。

『彩(エイジャ)』の制作過程については過去にドキュメンタリー番組も作られていて、私はそれを「GyaO」で観たことがある(DVDも出ている)。本書はその活字版のような趣。

1枚のアルバムについて、ドキュメンタリーが作られ、研究書まで書かれるのだから、いかに伝説的な名盤であるかがわかろうというものだ。

版元の「DU BOOKS」とは、コアな音楽ファン御用達のCDショップ・チェーン「ディスクユニオン」の出版部門。そのことからわかるとおり、本書も音楽マニア向けの内容である。

『彩(エイジャ)』は私も大好きなアルバムで、過去30年以上愛聴してきたが、それでも本書はあまり面白くなかった。楽典的素養がないとチンプンカンプンなところが多いうえ、著者の文章は変に気取り過ぎていて、わかりにくいのだ。

(私には)チンプンカンプンな記述の例を挙げる。

《〈ペグ〉のヴァースの背景には、こんな狙いがある――12小節の標準的な3コード(トニック、サブドミナント、ドミナント)を、変格終止、すなわちⅣからⅠに解決するおなじみの「エーメン」終止でひとつひとつ代用するのだ》

気取ったわかりにくい言い回しの例も挙げる。

《マンハッタンの外で、けれどもビバップのハートはじゅうぶん聞き取れる距離で育った作者ふたりのように、この曲の主人公は、ジャズという秘密の世界に安っぽい贖罪の可能性を感じている》

本書の巻末には冨田ラボの冨田恵一が解説を寄せているが、困ったことに、その解説のほうが本文よりも面白くてわかりやすい。

そんなわけで、本書は私の手に負えないものだったが、セッション・ミュージシャンたちとの共同作業の舞台裏を明かした章だけは面白く読めた。

『彩(エイジャ)』をめぐるよく知られた伝説である「ペグ」のギター・ソロのエピソード――間奏のギター・ソロのためだけに7人もの一流セッション・ギタリストたちをとっかえひっかえし、最後に呼ばれたジェイ・グレイドンが一発で最高のソロを決めてみせた、というもの――も、くわしく検証されている。

リー・リトナーが、『彩(エイジャ)』に参加したころのことを振り返って、こんなことを言っている。

《「LAのプレーヤーのあいだでは、彼らの作品に参加するのが大きな勲章になっていた」(中略)「別のセッションで同業者に会うと、よく『おたくのソロは合格したか?』と訊かれたもんだ」》

それでも、リトナーによれば「完璧主義者の度合いで言ったら、彼らは10点満点でせいぜい9点程度だろう。バリー・ギブとピンク・フロイドはもっとクレイジーだったからね!」とのこと。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽本
感想投稿日 : 2018年10月22日
読了日 : 2012年11月13日
本棚登録日 : 2018年10月22日

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