ファスト風土化する日本: 郊外化とその病理 (新書y 119)

著者 :
  • 洋泉社 (2004年9月1日発売)
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都市でもなく農村でもない、その中間に広がる「郊外」。地方は1980年代以降、いかに「総郊外化」していったのか? 地域の風土はいかに喪失され、住む人の生活や心をいかに変えていったのか?

郊外とは、交通インフラが整備され人やモノの流動が激しくなったが故に商業が空洞化した地域である。ベッドタウンもそうだし、地方都市もそうである。経済が疲弊した地域に、イオンなど大型資本チェーンが進出してきて、地域経済にとどめを刺す。

産業が空洞化した地域は、地域固有のアイデンティティや生活の記憶を失ってしまう。車社会化が進むと、そこに住む人の繋がりやコミュニティ意識も希薄になり、気づけば「どこにでもある景色」が目の前に広がるようになる。それがファスト風土化である。

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第4章の歴史編がとても興味深かった。筆者によれば、日本の地方のファスト風土化の土台を作ったのが、第一に角栄の『日本列島改造論』(1972 )に始まり大平の『田園都市国家の構想』(1980)〜に引き継がれる、「田園、故郷、ふるさと」を謳う国土行政であった。
しかし、筆者はそもそもハワードの田園都市論を「田園都市国家論」に読み替えたのが失敗だと言う。なぜなら、田園都市論は都市部における労働者階級の劣悪な居住環境の改善を目的としているのに対し、田園都市国家論は都市部だけでなく地方も含めた、本来であれば「必要のない」土地の郊外開発を目的としたからだ。こうして、80年代以降日本全土に「ファスト田園都市」がつくられていった。

そして第二の原因が、1980年代の対米貿易摩擦の解消のために公共投資や規制緩和を約束させられた、日米構造協議(1989-90年)であった。道路増設と規制緩和の結果、地域経済は自由競争の波に呑まれ、現在のイオン帝国が築かれていった。

これは、今だとまさに震災後の東北で「ふるさとの復興」という大義名分のもとに行われていることで、この近代以降の経済合理化という名の経済植民地化≒ファスト風土化は「良い」とか「悪い」とかではなく、もう誰にも止められないのだと思った。かつての高度成長期において、経済合理化は「一億総中流化」=格差是正を進めた。対して今は、先進国の中流市民が「負け組」に転落し、「自己責任」で終わらせられる時代である。ラディカルだがこれが現実であり、この流れは今後もっと加速していくんだろう。

最後に。いまいちと思った点。第7章のこれからの地域論では、都市(地域)を「買う」「消費する」「所有する」ことではなく、「使う」「利用する」「関与する」のが魅力的になる時代に入ったということが議論される。しかし、成功例が全て東京に集中しているため、これでは人口減少に直面する車社会の地方都市には救いがないような印象しか持てない。

あと、筆者が元パルコ関係者であるためか、イオン(と、アメリカ)に対してかなり感情的な議論をする点には注意が必要。しかも「日本浪漫主義」を危惧・批判するわりに自分もガチガチの郷土浪漫主義者だという点に関しても無自覚である。

批判的に読めば、郊外論・地域論として多くを学べる良書だと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養
感想投稿日 : 2021年5月29日
読了日 : 2021年5月29日
本棚登録日 : 2021年5月29日

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