翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1996年7月13日発売)
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本棚登録 : 2332
感想 : 288
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探偵の元に届いた脅迫状めいた手紙、赴いた怪しげな館では既に密室の中で2つの首無し死体が発見され、さらに探偵の目の前で繰り返される殺人と物語の材料だけ挙げてみればオーソドックスなミステリーなのに、ここまで異色の話に仕上がるのかと驚いた。

作中で語られるペダントリーは虚実ないまぜになっていて、それもこの小説の異質さに寄与している。

タイトルにある名前からして既に常人でない気配が漂うメルカトル鮎が登場するのは話がかなり進んでからで、それまで探偵役だった木更津はどう退場するのかと思っていたらなんと木更津は自らの推理とまったく違う現実を目の当たりにし、山に籠るため(山に籠るって!)に館を去ってしまった。入れ替わるように現れたメルカトルはエキセントリックな言動にとどまらず、木更津を犯人に指名したかと思えば首を切られた死体として発見される。このあたりからの展開のダイナミックさと解決編の破天荒さはなかなか味わえるものではない。

山籠りから帰ってきた木更津の提示する推理に対して、それは本気で言っているのか!?とツッコミを入れながら読んでいたら最終章でそれまで語り手に徹していた香月がすべてをさらっていく展開にはもう笑うしかなかった。

合う合わないはともかくとして、ミステリーという枠そのものに対して挑戦したいわゆる古典的作品(まあこれも30年くらい前の作品なのだけど)にない刺激は間違いなく得ることができる類の作品だと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー
感想投稿日 : 2020年7月19日
読了日 : 2020年7月19日
本棚登録日 : 2020年7月19日

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