平安時代の貴族たちのイメージは、高校までの授業で習った源氏物語や枕草子などの古典文学から持った和歌を読んだり蹴鞠に興じたりする人たちというものだったが、現実は必ずしもそうではなくむしろ頻繁に暴力沙汰を起こしていたという本。
主に小右記を根拠としており、この文献の存在を知らなかったので藤原道長が官人採用試験の試験官を拉致し圧力をかけたり、藤原経輔が後一条天皇の御前で殴り合いの喧嘩をしたなどといったエピソードが満載で面食らった。情操教育がなされないままなんでもできる権力を人が手に入れるとこうなるということだろうか...
著者の文学作品の中の貴公子たちはかなり理想化された存在であるという主張は納得できるが、事実関係以外の文中に推測が多いのが気になった。小右記が比較的信頼に足る文献なのであろうことは否定しないし、他の文献も参考にしている箇所はあるが。また暴力に次ぐ暴力なので胸やけしてしまった。
読んでよかったといえるのは、枕草子に登場する藤原伊周が左遷されるエピソードの顛末を知ることができたことだった。花山法王に弓を射かけた事件を発端として伊周、隆家兄弟が地位を追われ中宮定子が出家するくだりから後がどうにもそれより前と比べて雰囲気が違うと思ったが、背景知識を知った上で思い返すと中宮定子の出家と中関白家の凋落が作者に大きく影響していたのかと納得した。期待していた内容とは違う気づきだったが、これはこれでよかったということにしよう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史
- 感想投稿日 : 2021年4月26日
- 読了日 : 2021年4月25日
- 本棚登録日 : 2021年4月25日
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