一昨年、2020年は三島由紀夫没後50周年ということで、何か読みたかった。新潮文庫版『禁色』の、解説が追加された新版が出ていて、図書館になかったのでリクエストしたところ、司書さんに「96年に出版されたものならございますが…」と言われた(なぜか検索機に引っかからなかった)。無駄遣いさせるのも嫌だしリクエストを取り下げようとしたところ、解説が追加された旨を理解してくれて「せっかくなので、一応、会議にかけてみますね」とのこと。
後日、『禁色』は入っていて良かったのだけど、新入荷本は結局みんなガンガン借りていくので、リクエストした私がなかなか借りられないという図書館あるある笑。でも、リクエストした本が誰にも借りられないよりも、多くの人が読んでくれるのは嬉しいですね。
『禁色』がなかなか借りられないので、手持ちの『午後の曳航』を読むことに。持ってるのは以前のオレンジ色と灰色の明朝体のやつです。
『午後の曳航』の感想をネタバレしないように書くのはとても難しい……読んだ方はわかると思いますが、私が読むとけっこうショッキングなエグい描写があって、かなり気分が悪くなりました……。
三島由紀夫の本で私が読んでいるのは『仮面の告白』と『金閣寺』のみ。だいぶあとになって、『ジョーカー』や『タクシードライバー』、それから実相寺監督作品は、三島や『金閣寺』が元になってんじゃないの?と気づいたので、読んでいて良かった。
このふたつを読んだ際に思ったこと。
三島はスーパー頭が良くて、良く言えば「絢爛豪華な文章で…」だけど、悪く言えば比喩や修飾語をこねくり回すから、読みにくい。けど、難解な部分と平易な部分をちゃんとコントロールして書いている。スーパー頭が良いから。
でも、『潮騒』や『午後の曳航』なんかは読みやすいんじゃないの?と思ってましたが、想像どおり、読みやすかったです。170頁ほどで短いのも良い。
お話は、女とその息子と、船乗りの男の3人の話で、よくある恋愛ものや家族ものの形をとっている。けど、『金閣寺』と話の構造がほとんど同じなのにびっくりした。美を象徴しているものが金閣寺であり、この作品の船乗りの男。
三島は船乗りの格好をして歌を披露したことがあるそうだけど、男の姿は三島と重なる。船乗りという職業=小説家と読み替え可能。海と陸の対比で、海というのは三島にとっての戦争でもあると思う。一般大衆が海外旅行なんてできない時代、理由は戦争の為ではあるが、兵隊たちは海外に行った。
戦後、まだ日本がGHQの占領下にあった1951年から三島は海外旅行をして世界を見て回った(『アポロの杯』)。海外に行きたくて行きたくてしょうがなかったんだろうね。
その後、ギリシャ劇の影響で書かれたのが『潮騒』。この『午後の曳航』にも、ギリシャ悲劇の影響を感じる。具体的に書くとネタバレするから書かないけど。
もうひとりの主人公、女の息子。彼も三島の分身ぽくはあるけども、東大全共闘と討論会で対話したことを連想した。息子=当時の若者。三島由紀夫がもし戦後に生まれていたら、彼も全共闘側になってたんじゃないかな?と思う。
『金閣寺』と構造が同じで驚いた、と書いたけど、唯一違う点はやはりラスト。ここに三島の心情の変化が表れていると思います。(溝口と船乗りの男は逆の立場にもなっているけど)
三島は論理的な構造の小説を書くので、話の構造しか語らなかったけど、主人公3人の心理描写がとても細かくて、この点はすごく面白かったです。
短くて文章も読みやすく、三島由紀夫を理解しやすい作品なので、最初に読むならお薦めかもしれません。エグいけど。
- 感想投稿日 : 2022年1月10日
- 読了日 : 2022年1月8日
- 本棚登録日 : 2022年1月3日
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