知人に教えてもらってから三度ほど読みましたが、これは多くの人に是非読んでほしい本です。
筆者はハーバード大学医学部准教授の神経科医で、運動のすばらしき効能を説いています。
ただ本意は、むしろ自己コントロールの薦めに見えます。非常にモチベーションが上がる本となっております。
端的に言うと、運動は一般にダイエットと結び付けて考えてしまいますが、寧ろ脳と身体に物理的に作用する万能処方箋である、というのが筆者の考えです。
私も、運動できる人は実は勉強もできるという俗説は聞いたことがありました。当書ではその一端をロジカルに説明し、そればかりか、運動によって認知力の向上が認められた話、、ストレス、パニック障害、鬱、ADHD、依存症、月経や閉経時の変化、加齢などにも絶大な効果がある、と説きます。
こう書くといかにも大風呂敷を広げるようにも思えますが、運動とBNDF分泌との関連、運動とドーパミンやエンドルフィンとの関連などがしっかり説明されています。もっとも当方は20年以上前の高校レベルの生物の知識しかなく、余りついていけませんでしたが。。。
加えてこの本の秀逸な点は上記の病理と運動についての関連や具体例が、豊富に記述されていることです。ノースカロライナのネーパービル高校での奇跡から始まり、上記の各種神経症患者がエクササイズで自己を取り戻した事例が本人の談話を交え、細かく描写されています。もちろん一つや二つの事例から法則を帰納できるわけではありませんが、話が具体的なので説得力があります。
因みに、個人的に考えてしまったのは、なぜこのように運動が体に良い影響を及ぼすのかということです。当書のP.264で閉経時の女性が運動によりホルモンバランスを回復した記述がありました。これを筆者は「ホルモンが加齢の合図を発していても、運動が脳をだまして、生存のためにその機能を維持するように仕向けているといえる。」と表現しています。こう見ますと、運動による物理的なコンディション良化は自然な加齢からは逆行する現象であると暗に示しています。とするとなぜ人体はこのような機能があるのでしょうか。閉経という言わば生物学上最も重要な機能の一つ(子孫を残す)が終了してもなお老化をだます仕組みが残るとすれば、人間は種として子孫を残す以外にも生きる意味が生物学的に説明できるのかもしれません。個人的にはそうした別種の問いへ導く要素もありました。
纏めますと、当書は本当におすすめです。自分の知らなかった運動の効果がバシバシ出てきます。具体例も多く読みやすいです。そして、縁の下の力持ちですが、翻訳がとても読みやすい。読んでいて引っ掛かりとか、違和感とか、全く感じませんでした。強いて難点を挙げればこのボリュームです。単行本で小説でもないのに本の厚さは優に2.5cmはあろうかと思います笑。
コンディショニングや生物学系が好きな方はきっと気に入って頂けると思います。
- 感想投稿日 : 2021年3月26日
- 読了日 : 2020年1月12日
- 本棚登録日 : 2021年3月26日
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