⭐︎4.5
読後感の悪くない、決して爽やかとも言えないが、素敵な作品でありました。チェロという楽器は私の読んできたものかたりでも、重要な役割を果たしている楽器といえるかもしれない。賢治のセロ弾きのゴーシュも、五木寛之氏の戒厳令の夜もそして今作も、チェロという楽器の音色がものかたりを奏でていると言っても過言ではない。
今作と、戒厳令の夜にはカザルスが印象的に扱われているが、ものかたりから音楽を聴くようになったのも、チェロが初めてかもしれない。
このものかたりの主人公は、一見貧弱そうに見えて、実は芯の強い人だった。自分だったら、二度目の教室通いはないと思うし、正直この主人公はいつ自死するのだろうと、思いながら読み進めていた。
でも彼は死ななかった。強い。人である。
まぁ、もっと酷い目に遭っても死なない人もいれば、そんなことで死を選ぶのかと思う人もいるのだから、なにが人を生かしているのか、なかなか難しい問題である。
結局彼の身の上に起こったことは、ほとんどなにも解決を見ぬまま物語りは終わっていくが、暗い終わり方でもなく、また明るくもない。彼の心の傷が癒えるにはあと何年かかるのだろうかと思うし、人間関係が元通りに戻ることもないだろう。
生き切ることは、なかなかに難しく、悩ましい。
私のように、未読の書物を頼りに生きているものもあるくらいだ。書物がなければ、生きていけない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2024年4月2日
- 読了日 : 2024年4月2日
- 本棚登録日 : 2024年4月2日
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