先ず、このタイトルが私のどストライク。夢野久作さんの作品に良く出てくる「素敵な〇〇」と言う表現が大好きなのです。(『ドグラ・マグラ』の感想に書きましたが)
発売前から楽しみにしていた今作、ついに念願叶って読了致しましたので、短編毎に簡単に感想を書きたいと思います。
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【素敵な圧迫】
それはもう、素敵です。性的倒錯具合が!
大手コンビニ本部で働くOLの広美が、完璧な理想の男遼と出会い身体を重ねる、とネタバレ無しで書くとよくある恋愛ものですが、広美の素敵さはそんなもんじゃありません。
ラストの方は狂気すら感じますがそれが最高です。表紙の箱が何か分からなかったのですが、読んで初めて、あぁー!アレか!と納得。
これはぜひ体感して欲しい衝撃ですね。
【ミリオンダラーレイン】
1968年のお話です。学生運動も盛んな時期のお話で、ここでも呉さんが良くテーマにされている(気がする)社会の格差が出てきます。
貧富の差に絶望し、犯罪に手を染めようとする芳雄と藤本の奮闘記と言った話かな?
『素敵な圧迫』とガラッと違った社会派です。最後のオチが…なんという絶望感…。
【論リーチャップリン】
お話の舞台は一気に現代へ。13歳の勝が父親である与太郎に10万円を無心する所から始まります。
金の強請り方が恐喝に近いのですが、13歳とは思えない屁理屈が非常にコミカルに描かれていてずっと笑っていました。
まさにタイトルが全てを表していますが、果たして与太郎は勝を論破出来るのか。
「困ったときの子宮幻想」と言うパワーワードが出てきます。語彙のセンスが凄すぎる。
【パノラマ・マシン】
またまた時代が少し前へ。こちらは登場人物が全てアルファベット表記になっており、どことなく横溝正史さんや、夢野久作さんを思わせる世界観でした。素敵な耽美。
会社帰りの主人公Fが穴のように見える箱を見つける所から始まります。
こんなのも書けるのですか?!と単純に感心した作品です。一つだけかなり毛色が違うし、どことなく文体も変えてらっしゃるような?(鳥頭なので気の所為な可能性が高いですが)
【ダニエル・《ハングマン》・ジャービスの処刑について】
あれ、私はいつの間にかスポーツのインタビュー記事を読んでいたのか?と錯覚する位リアルなボクシングのドキュメンタリー形式です。
語り口調が我々日本人が良く耳にする海外バラエティの吹き替え調なので親しみやすく、ボクシングに詳しくないですが臨場感たっぷりに楽しめました。
途中から、おや…?と思っていたのですがまさかあんな終わり方だとは…。良い!(語彙力センスがゼロ)
【Vに捧げる行進】
1番ミステリーらしい雰囲気です。
コロナの衝撃波を諸に食らった商店街のお話。黄色の〇に赤のVが描かれた落書きを巡って、交番勤務のモルオ(名前がキュート)が奔走します。
これは犯人とその動機が判明したラストでは、唸りそうになりました。確かにあの混沌期で逆に吹っ切れて凄い方向に弾けるる人が居てもおかしくなかったなと、今更怖くなったのでした。
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とにかく個性の輝くお話ばかりで読み応え抜群。またもや呉さんの底の見えない才能に舌を巻きました。どちらかと言えば文学好きの方が楽しめる印象でもありました。
私の1番の好みは【パノラマ・マシン】でした。
たまりませんなあ、あの薄紫のエフェクトが似合いそうな世界観は…。
(また友人に変な心配をされそうなので、黙っておこうと思います)
- 感想投稿日 : 2023年9月12日
- 読了日 : 2023年9月12日
- 本棚登録日 : 2023年9月12日
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