そもそも交通手段が発達している首都圏の中でも秀でた交通ネットワークを持つ23区内において、首都高ほどハイリスクな移動手段はありません。
どんな交通手段よりも早くたどり着く事もできる一方で、徒歩のほうがましだったというくらい渋滞するケースもあるでしょう。
本作はそんな贅沢な首都高を利用するドライバー達の人間ドラマ集です。
首都高がメールマガジンで展開していた短編集だそうです。
首都高をテーマにしたとはいえ、メインは首都高ではなく首都高を利用する人々。スポーツカーが首都高を速度超過でかっとばす、そんなアウトローな話はありません(首都高公認なのでそれは出来なかったのだと思いますが)。
むしろ首都高なんて使わなくてもいい、という場面でわざわざ首都高に乗ってしまう、不思議な話が多いです。
慣れない東京で電車移動とさほど変わらない所要時間の場所へ、レンタカーを借りて首都高で移動する人。千鳥ヶ淵の桜を見せるため、首都高に乗る人。
この世界の人々は、とりあえずの前提条件が車移動限定であり、絶対に首都高を使わなければならない呪いにかけられているようです。
霞が関から都心環状線外回りでは上野線方面には行けない、通常であれば「一般道で行こう」と考えますが、この作品では「内回りでいこう」となります。
情感あふれる人間ドラマ風味に突然謎の首都高ムーブ、というシュールな情景を想像できる点で、ある意味都内を頻繁に運転するドライバーの方々におすすめしたい作品です。
最近の首都高は延伸したり、地下化工事が始まったり、出入口廃止したりと、ここ数年でだいぶ変化していますので、また新しい首都高を舞台にした人間ドラマが作られると面白そうですね。
ちなみに、私はおそらく一瞬しか見られないだろう千鳥ヶ淵の桜より、外回り芝公園付近で横目に流れる東京タワーの方が好きです。
- 感想投稿日 : 2021年3月3日
- 読了日 : 2021年3月1日
- 本棚登録日 : 2021年3月1日
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