寺地はるなさんは、今回初読みの作家さんだった。
『大人は泣かないと思っていた』
九州の架空の田舎町、耳中市肘差を舞台にした7編の短編集で登場人物は全編で繋がっている構成
「大人は泣かないと思っていた」
「小柳さんと小柳さん」
「翼が無いなら跳ぶまでだ」
「あの子は花を摘まない」
「妥当じゃない」
「おれは外套を脱げない」
「君のために生まれてきたわけじゃない」
特に「翼が無いなら跳ぶまでだ」と「君のために生まれてきたわけじゃない」は印象的だった。
女らしさや男らしさ、長男だからとか家柄とか、古い慣習や教えに拘って逆らえずに生きる人や、それでよしとする人、或いはそこから抜け出したり、抜け出さなくとも変わろうとする人の物語
本作は、短編毎に主人公を変え様々な目線で読み手に語りかけている様な構成だった。また、それぞれの主人公に肩入れせずフェアな立場を保ち、その目線や立場での思いや葛藤が丁寧に綴られているため、読み手の思考が良い意味ですごく揺さぶられる。
個人的には鉄腕と玲子のカップルが好きだなぁと思った。
2人からは田舎町に住む上での前向きなヒントや希望が感じられた。こういう人が増えると田舎町も変わっていくだろう。
また、22歳という若さながら、田舎町で様々な思いをして暮らして来た知恵と勇気から、確固たる信念と拘りを持って逞しく生きる小柳レモンにもエールを送りたい。
そして、時田翼…
レモンと幸せになって欲しいなぁと心から思う。
人の痛みが分かる一方で、臆病で繊細で傷付きやすい。
母の広海のためと父の入院を知らせずにいるが、たとえ大酒呑みで頑固な別れた夫であっても、病床に伏していると聞けば広海は駆けつけると思う。
生き方と人の心は、そう器用に割り切れるものじゃないのだから。
人が決めた○○らしくよりも、自分らしくいられる道を探す方が、何より幸せで、自分を解放し、受け入れることが出来る近道だと思う。
寺地はるなさんは初めて読んだ作家さんだが、是非他の作品も読んでみたいと思える作品だった。
- 感想投稿日 : 2023年8月25日
- 読了日 : 2023年8月25日
- 本棚登録日 : 2023年8月24日
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