垣内美雨さんの作品は『女たちの避難所』に続いて2作目。今回は『老後の資金がありません』という深刻なタイトルながら、とてもコミカルな要素を随所に散りばめ、登場人物の切実で逼迫した状況を、しっかりと現実味のある内容に仕上げてあり、ついつい一気読みしてしまった。
物語は後藤篤子という日々家計のやりくりに奮闘している主婦目線で進む。パート社員で働く篤子の家族構成は、夫と娘一人息子一人で、娘の結婚費用や、舅の葬儀費用に、姑への仕送りや同居問題、その先に待つ諸問題等、主にライフイベントに関わる金銭問題が次から次へと勃発する。篤子が同世代で、堅実で小心者で、どこまでも子ども思いな性格から、強烈に同情心が沸いてしまった。
いつ誰の身に起きてもおかしくない無い問題だけに、読み進めながらも何処かで警告音が響いている感じがあり、他人事とは思えない。特に、冠婚葬祭については経験値が低いわりに莫大なお金が掛かるのだ。中でも、お墓や葬儀といった負の要因から生じる費用は、経験者が雄弁に語ることもない為、身に降りかかるまでなかなか積極的に関わろうとしないのが一般的だろう。
そういう意味でも本作はとても貴重だ。
お金がテーマで、ましてや老後の資金が無いという切実な状況にも関わらず、夫婦そろって馘になっても悲壮感はあまり感じられず、それどころか面白おかしくお金の大切さを訴えかけてくる作品に仕上がっている。やっぱり垣内美雨さんは凄い。
現代では将来のお金のことで不安を抱えている人が殆どだと思う。かと言って無視していられるものでもないだろう。本作は、そこに向き合う一助になると共に、悲観的にならず前を向いて生きていく勇気を与えてくれる作品だった。
- 感想投稿日 : 2023年10月17日
- 読了日 : 2023年10月17日
- 本棚登録日 : 2023年10月11日
みんなの感想をみる