ちいさいおうち

  • 岩波書店 (1965年12月16日発売)
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本棚登録 : 2698
感想 : 296
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名作絵本。
1954年4月15日(66年前です!)に第1刷、手許にあるのは第68刷。ロングセラーが多い児童書の中でも横綱級の定番です。改めて見ると訳は石井桃子先生なんですね。すんなり読める訳なので今の今まで意識しませんでした。

妊娠が判明して舞い上がっていた時期に、よく考えずに「自分が知っている絵本だから」と「きかんしゃやえもん」や「ぐりとぐら」と一緒に買ってきた一冊です。
でも「自分が知っている本」ってことは、記憶に残るくらいの年齢で読んだ本だということで、つまり赤ちゃん向きではないということ。新生児期、乳児期は当然ながら全く興味を示さず、読み聞かせを聞いてくれるようになったのはほぼ5年後でした。恥ずかしながら今から考えれば当たり前です。

最近になってようやく、本棚に並んでいるのを見つけて、これなあに、読んで?と言って持ってきてくれるようになりました。
自分が子供だったときに好きで読んでいた本だよ、って教えたら、それ以来、本棚から持ってくるときに「はい、好きな本」って言うようになりました。
本人的にはそれほど好きな本ではないようです。郷愁とか、悲哀とかについて書かれた本を読んで楽しむにはやっぱりまだまだ早いようです。でも「読み聞かせてくれる人が好きな本」を持ってきてくれるようになったのは間違いなく成長ですね。

ところで、子供にそんなことを言われたのをきっかけに、自分が子供だった頃、この本が好きだったかどうか、思い出してみたら自信がなくなってきました。絵にもお話にも覚えがありますが、振り返って考えてみると自分が好きだったのは絵を眺めることだったようです。
判型が小さい絵本なので絵も小さいのですが、でもきちんと隅々まで描きこまれていて、季節ごとにちゃんとひなぎくが咲きリンゴがなり、子供は川で泳いだりそりで滑ったりしています。そんな美しい田舎の丘の間を一直線に切り裂く道路工事が始まってショッキングだったり、ちいさいおうちがだんだんしょんぼりしてくるのがかわいそうだったり。
でもいったん町が発展しだしたら路面電車ができ、高架鉄道ができ、地下鉄ができる様子が克明に描かれているのが興味深かったり。
絵本の感想なんだからそれでいいよね。

でもこの本の「感想」を言語化しようと思うと「ちいさいおうちは引越しできてよかったねえ」って月並みなものの他、「家をトレーラーに載せて引越しするのって嘘っぽい」「せっかく田舎に引っ越しても、引っ越した先がまた街になったらどうするんだろう」なんて身も蓋もないものになってしまいそうです。
だって、ストーリーについて何かを感じなければいけないと思っていたから。本なんだから、絵はおまけ、お話について面白く感じなければいけないと思っていたから。

この本の感想文を書いたわけではありませんが、でも小学生になって、「読書感想文」を書かなくてはならなくて、自分の思いをどう原稿用紙に書いたらいいのかわからなかった頃の気持ちまでまざまざと思い出してしまいました。
今振り返ってみると、地方都市の郊外という都会でもなければ田舎でもない中途半端な環境に住んでいた当時の自分にとって、ひなぎくが咲き、夜になればリンゴの木がダンスをする田舎の素晴らしさも、昼間ほんの少ししか太陽を見ることができない都会の喧騒も、実感することができないものだし、かと言って「絵が好きだから好き」「路面電車と高架鉄道と地下鉄がお家の前を走っていたら毎日電車が見えてうれしい」なんて感想を書いてはいけないと言われていたし。好きな本なのにその本の好きなところを封印しなければいけなかったあの頃の自分ってかわいそうだったんだなあと思います。

最近は、一人の時間に、お話はいったん横に置いて絵だけをのんびりじっくり眺めながら、粗筋と引用で一生懸命真っ白な原稿用紙を埋めようとしていた当時の自分の頭を撫でてやってます。
今度子供が本棚から持ってきてくれたら、2人でゆっくり絵を見ようと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2020年3月31日
読了日 : 2020年3月31日
本棚登録日 : 2014年2月17日

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