コウノドリ(16) (モーニング KC)

著者 :
  • 講談社 (2016年12月22日発売)
4.15
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本棚登録 : 427
感想 : 22
4

テレビドラマ化もされた人気シリーズの第16巻。

「ペルソナ総合医療センター」の産科を中心に、妊娠出産、赤ちゃんとお母さんを巡る悲喜劇と、主人公サクラ先生を中心とした群像劇が、綿密な取材に基づく圧倒的なリアリティと現場感を伴って語られます。

ここまで各巻同じような書き出しでレビューを書いてきました。同じ舞台で、基本的に周産期医療に関して何か問題が発生し、ペルソナチームがそれを解決していくという同じパターンが繰り返されている作品なのですが、16巻に至ってもマンネリは感じられません。
これは、まず元ネタである「問題」が豊富であることの成果でしょう。綿密な取材をしていることがうかがえます。
さらに、問題解決を通してキャラクターの成長が描かれることで、ストーリーが一つひとつのエピソードを超えて紡がれており、これが読んでも読んでもまだ先が読みたくなる、この漫画の魅力の大きな核になっています。

この巻でも、ある主要な登場人物が大きな成長の第一歩を踏み出す伏線が敷かれています。

この巻には「VBAC」「胎動」「子宮筋腫」が収録されています。

以下、各エピソードに一言ずつ。

「VBAC」
旦那さんが家事育児に全く協力的でない秋野さんは、二人目妊娠中。ワンオペで2人の育児をすることになりそうな現状から、産後の回復が帝王切開より早いという「VBAC(帝王切開後経膣分娩)」を、子宮破裂のリスクを承知の上で希望します。

育児の話題で必ず登場する妊娠・出産・育児に無関心で非協力的でな旦那さんがまたまた登場します。そんな旦那さんの話を見聞きすると、出産の前に恋愛と結婚を経なければいけない配偶者獲得システムってリスキーで時間がかかって無駄だなあって思っちゃいます。面倒な段階をすっ飛ばして妊娠出産できれば少子化問題って解消しそうな気がしませんか?
それにしても、家事育児はともかく、奥さんの話くらいちゃんと聞いてやれよ…。あと、特に乳児期は愛情とかは横に置いておいて、赤ちゃん死なせないように安全確実に作業を繰り返せる「プロチチ」の主人公直を見習えよ、って思ったりしました。

結局、説明された「リスク」が目の前に具体的な形として表れて、初めて奥さんと子供の命が本当に失われるかもしれないことに狼狽えて帝王切開に切り替えるよう頼みこむその姿からは、まだこれから始まる育児に主体的に係わろうなんて覚悟は微塵も感じられません。秋野さんが悲しい思いをしないですむよう、祈るばかりです。

あと、スタンスの違いからサクラ先生と四宮先生が対立するのはいつものパターン。四宮先生の、合理的で、妊婦さんや赤ちゃんを死なせないという筋を通しつつ、でも嫌味ったらしくなっちゃうんだけど、だけどやっぱり緊急帝王切開に備えて待機してるっていうツンデレっぷりが大好きです。こんな2人の信頼関係は、帝王切開に切り替えるとき、後ろを振り向きもせず「四宮先生……」「帝王切開だ」と呼びかけるサクラ先生と、やっぱりそこにいる四宮先生というシーンに描かれています。

「胎動」
一人のお母さんの出産を通して主治医の倉崎先生の肩の力が抜けるまでを描くエピソード。

やんちゃな高山さんは特にリスクのない妊婦さん。
最初の来院時は離婚後300日以内に出産した子供は前夫の子と推定されるという「300日規定」を心配し、胎児のしゃっくりを痙攣ではと心配してペルソナに駆け込み、胎動が少なくなったことも気にかけて再び駆け込みますが、問題のない普通の妊婦さんです。

最初の胎動、しゃっくり、そして胎動が減ったこと、それぞれうちの出産でも覚えがあります。
最初の胎動の感想は「ポコポコ」。しゃっくりは産院で教えてもらってはいましたが、こんなに頻繁なのかと驚きました。そして、胎動があまり感じられなくなったときは、夜中の2時に産院に駆け込んだものです。

心配しすぎなのかな?と申し訳なさそうに聞く高山さんに「お家で不安でいられるよりは来てもらったほうが私も安心します」と寄り添う倉崎先生。復帰当初の頑なさはずいぶん薄らいだようですが、その後の高山さんとの会話で「父親は……いません」と口に出してしまいます。

自分の子供を育てながら他人の子供が無事に生まれてくるよう仕事をしなければならない、シングルマザー産婦人科医の悩み。これまで倉崎先生回で繰り返し語られてきて、ようやく吹っ切れた様子です。

お医者様ほど高度な専門性と高い責任感を要求される仕事をしているわけではありませんので、うちでは最後の最後は「会社で自分の代わりはいるけれど、親としての自分の代わりはいない」とお迎えに向かう日々。ほとんどのお母さんやお父さんはそうでしょう。小松さんみたいに代わりにお迎えに行ってくれるような親切な人がそうそう職場にいるわけではありません。

だから、このエピソードは自分にとっては雲の上の話です。「他人に迷惑かけたっていいじゃないか」というサクラ先生の言葉は本当にそのとおりですし、お話としては面白く読めるのですが、サポートが充実し、上司や同僚にも恵まれているお医者様の身の回りのお話は、共感という切り口からは、どれ一つ当てはまらない自分にとっては単に羨ましいだけで、ほかのエピソードに一歩譲ることになってしまいます。

「子宮筋腫」
小松さん回。
互いに関心はありながら、なんとなく億劫で進展しない小松さんと山下ジョージの仲を、お互いから相手への思いを聞いたサクラ先生が後押しします。

もともとサクラ先生のピアノをよく聴いていた小松さんがイケメンピアニスト山下ジョージに惹かれるのはよくわかりますが、山下ジョージが小松さんに惹かれるのは…何ででしょうかねえ。
自分とは違う世界の人間だから、ってだけで惹かれるわけでなし、お仕事中の小松さんを知っているわけでなし、もしかしてちびっ子好き?

あと、ズラ被っただけでサクラ先生がベイビーだってわからなくなるもんなんでしょうかw

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 鈴ノ木ユウ
感想投稿日 : 2020年2月12日
読了日 : 2020年2月12日
本棚登録日 : 2016年12月24日

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