口の立つやつが勝つってことでいいのか

著者 :
  • 青土社 (2024年2月14日発売)
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本棚登録 : 703
感想 : 17
3

 タイトルにつられて。
 うまいなぁと思った。口の立つやつ、嫌いなんです!笑 嫌いっていうかこの人生で口喧嘩で勝てた試しがないので理屈捏ねて横柄な態度で威圧してくる、所謂「口の立つ奴」に煮湯を飲まされてきたオタクです。30分くれれば、メールなら、ちゃんと反論できるのに!!口の立つやつ大抵雰囲気が怖いからびびっちゃうんですよね。私情がすごい。
 そんなわけで、序盤は作者の紹介エピソード読む度にこういう人嫌いだな……とかうっすら雑念を避けきれずに読んでいたのですが本としては面白いです。
 というか、編集者とか文学者に時々いる、活字は苦手で本は読めないみたいなタイプの人、どうしてそういう職業につけるんだろう? この本の中盤に出てくるみたいな、「どっぷり浸かっている人や染まってる人より違和感を抱き続けている人の方がその気持ち悪さを言語化しようと思考し続ける分視点が鋭い」ってことなのかなぁ。

 途中で気付いたけどエッセイ集というよりWEBや雑誌連載をまとめたもの、みたいな感じなので一冊のまとまりとしてはちょっと欠けてると思う(何回も病気の話されるとRPGの村人か?みたいな気持ちで勝手に食傷気味になる、みたいな。こういうのこそ編集でどうにかなると思うんだけど)のと、話の面白さにばらつきが多いかな。前半の面白さに比べて後半の失速はなんだろう?


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 思わず口走った言葉は本心なのかというトピック。作者は少年時代に自分でも思いもしなかったことを感情的に言ってしまったことを今でも不思議に思っていて、けれど他者からそれを無意識下の思考と言われることを過剰に嫌がっててそれがちょっと面白かった。この人占いとかに全部当たってないって思うタイプの人かもな、みたいな。
 というか、いわゆる口の立つ人って常に相手を論破する思考スタイルになっていることが多いから口論という感情的なシチュエーションだと確かに自分の考え、言葉ではなくとも「目の前の相手を打ちのめすことができる」というそれだけでトドメの一手になる言葉を武器として選んじゃうのかもしれないなと思った。会話目的が言葉を交わすことじゃなくて相手の意思をやりこめることになっていて、その目的の為に手段を選ばなくなっている戦闘状態であることに思考も感情(理性?)が追いついていない、ということなのかな。口の立つやつって思考と同時、もしくは思考より先に言葉が出るタイプなのだろうからまぁ一理あるかも。
 そのシチュエーションだとどんなに言い訳しても本心だとしか思われないだろうからもう自分を律するしかないと思うけど。
 なんかこういう深層心理のあたりを「途方に暮れます」とか「無敵の心理学と呼んでいる」とか書いちゃうあたりにこの人、こんな本出すわりには自分の受け入れたくないことを「こわい」という言葉に落とし込んじゃうんだなと思った。この文脈の怖いは弱者の恐怖ではなく強者の糾弾だし。でもこのエピソードのおかげで日頃から思ってた「口の立つやつを追い詰めると思考の時間稼ぎの為に怖いって言ってくる」説を強化できた気がする。普段キツいこと言って論破してくるやつに「怖いから」って言われたら傷つく必要はなく、逆にあと一歩なんだなと思うことにします。この瞬間に矢継ぎ早に叩き込め!(でもこっちは口が立たないから失敗しがち)は〜……自己保身が強くて卑怯な奴を敵に回すと大変だ。
 作者と合わないな〜〜〜と思いながら読んでたからこそ面白く感じるというよくわからない読み方をしてしまったけど、途中で出てくるツイッターの事例とかが私も目にしたことがあったので、もしかしたら有名な人なのかな?と思ったらツイッターで見たことあるアイコンの人だった。この人かぁ。


 最近「共感するとはどういう状態か」ということをよく考えていたので、「親切が当たり前の宮古島」のエピソードが興味深かった。親切でゆったりとした宮古島イズムが現地に向かう飛行機の中から始まっていて、しかもそれは空気でまんべんなく伝わっていくというのが面白い。
 共感というのは感動と同義ではなくて、いかに自分ごとにできるか、相手に寄り添えるかという、……相手との距離感を自分の経験や想像で近付ける能力のことだと思ってるんだけど、言葉という上辺の下に、言葉にできなかったいろんな想いや背景事情を想像することが歩み寄りに繋がるし、それって基本的に自分が弱者として扱われた傷の経験から生まれるスキルだよな、とも思った。
 指摘されることで気付く偏見も自分の中に沢山あって、たとえば女性というだけで不利な立場に置かれていた女性がその能力を正当に評価されるのは素晴らしいハッピーエンドだけど、では能力の低い女性は弾圧されたままでいいのかと言われると……、みたいなことは多分全員がずっと考えていかなければならないことなんだよね。全てを自分ごとにはできないから、目に映る範囲、手を伸ばせる範囲だけでいいと私は思うけど。
 でも自分の視界に入った「変なやつ」を変な人!で終わらせるのは意識的にやめようとは思った。なんか事情があるんだな、と思うのは無関心と似てるようで少し違って、いざという時には大切な思考だと思う。


 ライトな書き口なのでさらっと読めるし、本の内容は面白かったです。noteで同じ内容が公開されていると記載があったので、気になる人はまずそちらを読むのがいいのかも。確かに本というよりはnote読んでる感触で読めました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月15日
読了日 : 2024年3月15日
本棚登録日 : 2024年3月15日

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