銀河鉄道の父

著者 :
  • 講談社 (2017年9月13日発売)
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雨ニモマケズ、の最後の一文は盛大なオチだと随分昔から感じていた(「……って、自分がそうだってんじゃないんかーい!!」)ので、それが実の父親の言葉として文章化されて壮快な気分。

タイトル通り、宮沢賢治の父親が語る、賢治を中心とした彼の子どもたちの人物譚。
この父親がいい。昔の田舎の人間にしては先進的で話が分かり、しかし母親的とも言える湿っぽい愛情を子どもたちに向けるのを抑えきれない。

賢治の童話をこよなく愛し、これまで幾度となく岩手に行くほど傾倒していたため手に取ったが、これは宮沢賢治の人生の記録という側面もさることながら、貫くテーマは「親の不器用な愛」。
久しぶりに会った溺愛する息子の、急激に成長した姿に、好感ではなく「なんだかただの男になった気がした」と不快感をもつなど、醜いとも言える愛情を赤裸々に描いている。

また、賢治がトシに抱く情を、よく言われる崇高な兄弟愛を越えて肉欲をも感じさせる描写を交えるなど、世間で勘違いされているような「聖人君子」然とした賢治像にしていないところがいい。
いや、ある意味では彼は確かに至高の頂を目指す求道者だったのかもしれないが、得てしてそういう存在は身内や身近にいる人間に図々しいほどの迷惑を無意識のうちに掛けているものだ。
自分や自分のごく近しい人間から搾取したものを、多くの人に分け与える。
その矛盾を、最も本人と分かちがたい存在である「親」の視点からつまびらかにした本作。
賢治の作品のキレイゴトにちょっと違和感を覚えている人は是非読むべきである。
決して賢治を好ましい人物として描いてはいないのに、読み終えると彼に親近感を覚え、ちょっと好きになっているはずだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年6月9日
読了日 : 2018年6月8日
本棚登録日 : 2018年6月8日

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