ワールド・イズ・ユアーズ (星海社FICTIONS)

  • 星海社 (2019年4月17日発売)
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感想 : 2
5

 お前は私か、という感想がまず第一に出るし、そういう感想を抱く文系男子は多いだろうと思う。ラップが好きで、創作も好きで、それでも挫折して……それがとても良い。また、村上春樹の「風の歌を聴け」っぽくはあるのだが、メンヘラ(?)の子とラブホにいってセックスせずに、幽遊白書歌うところとか、この1980年代の世代の独特のつらさ、空虚感、そして「真面目さ」がとても出ているし、それと、ヒロインの子の美しさと淡々とした感じがとてもいい味を出している。大傑作と言っていいのではないか。もちろん私もMCバトルを観て、その新しさに、魂のぶつかり合いに、いまでも2003のビーボーイバトルのダイジェストの編集の音だけのものを聴いているし、その大会がそれしかないゆえに、全力をもってラッパーが挑んでいく感じがたまらなかった。みんな命がけだった。ラップで食えるはずなんてないのだから。
 途中、たとえば主人公が浮気したり、もしくは渚が浮気したりと、都市の物語としてよくありがちな展開を、つまり、花沢健吾みたいな女性の感じを出すのかなと思ったけれども、そんな都会もののありがちな展開にはならず、ハハノシキュウの空気感をキープし続けたのはえらいし、渚は強い意志をもった聖女で在り続けたし、価値観の違う、絶対捉えどころのない存在で在り続けたのが良かった。
 DELLのノートパソコンとか、当時みんなDELL買ってたな~とか。同時代史にもほどがある。お前は私か! がまず第一に感想だ。
 特に驚愕したのが立川談春だ。談春は私も当時注目していて、録音したアルバムを蔦屋で借りて夢中で聴いていた。「しけた話」のオチで終わる九州吹き戻しがはじめて真剣に聴いた落語だった。福田和也が評価していたから、聴き始めたのだ。談春の紺屋高尾は、大阪のブリーゼブリーゼあたりにあるホールに出向いて聴きに行って感動したものである。
 楓さん=お姉さんであれば、すべて今までのメールのやり取りは虚構であり、そこで小説を書くのを諦めるに帰着するのも、鳥肌ものだ。
 正直に言えば、村上春樹の「風の歌を聴け」は超えていると思う。日本語ラップ小説の大傑作と評価していいし、あえて河出などで文庫化がまたれる。1980年代の前半を生きた人間すべてに捧げることができるような本であり、芥川賞貰っても良いと思う。ただ、「そこまでB-BOYじゃないけど、MCバトルを夢中で追いかけた経験」をしていないと、そこまで感動することはできないかもだけれども。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: HIPHOP
感想投稿日 : 2020年11月2日
読了日 : 2020年11月2日
本棚登録日 : 2020年11月2日

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