統合失調症の一族: 遺伝か、環境か

  • 早川書房 (2022年9月14日発売)
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統合失調症の一族

1944年に結婚したドン&ミミのギャルビン夫妻は十男二女に恵まれたが、子どもたちは次々と統合失調症に罹患し、最終的に男子6名が診断を受けることになる。アメリカの文化もあってか、薬物乱用や銃による無理心中、妹への性的虐待など、陰惨な事件が続き、家族は疲弊すると共に、次はいつ、誰が発症するのだろうという不安を抱えながら生きることになる。

精神医学の発展も、家族の疾病観に大いに影響する。すなわち、学界も一番最初は統合失調症に生物学的な要因を探し求めようとしたが、優生学運動が隆盛したことにより、脆弱な遺伝子を持つ者が一掃されてしまう可能性が出てきたため、その反動として心理学的な要因が熱心に探求されることとなった。精神分析の流れを組むフロム=ライヒマンが「デボラの世界」で統合失調症は心理学的な要因で起こるのであり、それは完璧すぎる母親の養育態度(統合失調症誘発性の母親)によるものだとすると、これが支持されて優生学的な懸念は後退したが、実際に患者を子どもに持つ親は非常なストレスを感じるようになり、患者を医療機関につなげることを躊躇させることになった

続いてやってきた薬物療法の時代にあってもギャルビン家の兄弟は治療効果が出にくく、副作用ばかりが目立った。比較的若くして心臓疾患で亡くなった二人について、薬物療法を選択したことは正しかったのか、残された家族は悩む。

本書のもうひとつの軸は、家族研究によって遺伝の役割を明らかにしようとしたフリードマン、デリシ(よく見る名前だが、女性だというのを初めて知った、、、)の奮闘である。統合失調症が多因子遺伝であるからこそ、その遺伝因子を究明するためには家族内発生率の高い家系を調べるべきだと考えたデリシらによって、SHANK2やニコチンα7受容体などの以上が明らかにされる。これらの異常は今の所まだ実際の創薬には結びついていないが、ギャルビン兄弟の末妹の子が研究者を志向し、2017年にフリードマンの研究室に入るところで終わる。途中はやや救いがない感じで陰鬱なトーンだが最後のこのシーンで救われた感じ。読後感は良かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 精神医学
感想投稿日 : 2022年10月17日
読了日 : 2022年10月17日
本棚登録日 : 2022年10月17日

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