祖母が死んで、家族に戦争を知る者はなくなった。さて、息子に戦争というものをどうやって伝えたものか。
子どものころに読んだ戦争の絵本は、早乙女勝元・田島征三「猫は生きている」(名作です)など、空襲や原爆で無辜の市民が殺されていくものばかりだった。
戦争の残虐が骨身に沁みる一方、それは死そのものへの恐怖なのかもしれず、あの戦争、また戦争というものの輪郭を捉えることはできなかった。
人の死は描写されないこの絵本では、若い鶴見俊輔が日本から米国へ渡り、日米開戦を経て日本に戻って、戦火をくぐり、敗戦を迎えるまでのこころのふるえが、淡々と語られる。
大戦を通じふたつの国を外人として生きた鶴見俊輔は、今なおどこにも属することができない。こころのうちはいつも外人としてさまよっている。
地球上の誰もが誰かにとっての外人ではないのか。
自分の底では人は誰もが外人ではないのか。
その問いかけが、理不尽な死よりもいっそう胸に迫る。考えろ。これはほかでもない、自分の物語なのだと。
「どうして自分が生きのこったか、その理由はわかりません。わたしが何かしたために、死ぬことをまぬかれたというわけではないのです。そのたよりない気分は、敗戦の後も続いており、今もわたしの中にあります。今ではそれが、わたしのくらしをささえている力になっています。」
「自分の底にむかっておりてゆくと、今も私は外人です。」
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
children's literature
- 感想投稿日 : 2020年12月1日
- 読了日 : 2019年11月19日
- 本棚登録日 : 2019年11月19日
みんなの感想をみる