獄中記 (角川文庫ソフィア 237)

  • KADOKAWA (1998年4月1日発売)
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感想 : 19
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外界の人々は絶えず動く生活の幻影のによって欺かれる。彼らは人生とともに回転して、その非実在性を、一層、拡大する。
私はただ表現するだけでも、芸術家にとって生活の最高のかつ唯一の様式である……
私を破滅に導いたのはこの私であり、どんな偉い人間でもまたつまらない人でも、自らの手によってのほかは決して破滅を来すものではない……

彼は常に新たな自己の発想を確信し、揺るぎない真実として驕傲に充ちた―其れは最高の芸術家としての才能であり、あるべき姿勢であると想われる―思想を以て、作品を完成させる。
芸術家として生きる彼は、表現を最上級且つ究極の生きる術とし、其れに適わないものを疎んで来た。
彼の行き着いた場所は彼の目指して居た最高の位地では無い。終着点も、理想の極みも彼には存在し得ない。
常に彼は新しい発想を現とし、其れに終る事は無い。過去を肯定しながらも、確信を求め続ける。

キリストを讃えるこの著作も、彼の置かれた「現在」を象徴する表現たるもので、其所に謙遜の意は込められて居ても、彼の持つ「彼の表現に於ける欺瞞」は決して殺がれる事無く存在し続けている。
それこそが、ワイルドの作品の素晴らしさであり、美の極みであるのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2011
感想投稿日 : 2011年4月24日
読了日 : 2011年4月24日
本棚登録日 : 2011年4月24日

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