ローマ帽子の謎 (創元推理文庫 104-5)

  • 東京創元社 (1960年12月2日発売)
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本棚登録 : 373
感想 : 44
4

これがかのエラリー・クイーンのミステリですか。
お恥ずかしながらわたくし、エラリーというとえらそうな私立探偵かなにかだと思っておりました。いい意味で予想を裏切られました。

警視リチャード・クイーンとその息子エラリー・クイーンが取り掛かる謎は劇場内での殺人。
被害者は悪徳弁護士、ときは劇の真っ最中、死因は毒物の嚥下。
被害者の付近の席は七つも空席で、男は死に際に「殺られた」と呻いたという。
クイーン父子は死体を見て気付く。弁護士の凝った正装にあって然るべき帽子がどこにもなかった。
すぐさま劇場内にいた人々をとじこめ、身体検査を始めるがなにも出てこない。
犯人は?目的は?どうやって殺したのか?父子は謎を解明すべく奔走する――。

読書の愉しみという点ではそれはもう楽しませていただきました。何しろ、警視とエラリーの会話がかわいくて仕方がない。
どちらかが怒ればどちらかがくすくす笑うといった様子で、お互いを思い合った、非常にバランスのいい父子です。
クイーンは息子をのらくらした道楽者と嘆きながらも捜査の供としなければ落ち着かず、実はかれの知恵を誇りに思っている。
エラリーは見つけた初版本を買いに行きたくてしかたがなく、嫌味を言いながらも父についていく。
とくにエラリーの発言についてはシェイクスピアや聖書など引用や比喩のたぐいが多岐にわたり、この小説が教養のある人物の手によるということがはっきりわかります。

正直最初に文章に目を通したとき、原文が透けて見え、さらには修飾語が日本語としては不自然に多い訳文にうんざりしたものですが、細部にいたる訳者註に目を通しているうち、訳者もこの作品に敬意をもって訳したのだろう、ということを理解せざるを得ませんでした。
問題があるのは主に地の文の表現で、「ちゃめっぽい」(何度か使われていて最も気になった語です)などところどころ最適とは思われない表現があてはめられているのは気になるところでしたが、エラリーの敬語口調や人物の動作にたいしての形容詞の選びかたについてはある程度評価したい。
前述した散りばめられた教養のせいで、わたしならこの小説を訳すのはいやですから。

◇謎にかんして(ここからネタバレです)

肝心な謎に関しては、作者からの挑戦がつきつけられた時点で犯人の見当はついていました。
なんとなくというか、帽子にかんする謎を考えたときその必然性から犯人はおのずと導き出されていました。
しかし即座に頭のなかでその可能性を打ち消したのは、犯人が舞台上にいる計算になってしまう、と思ったからです。この点に関して、クイーンはフェアだったでしょうか?
もし記述があったとするならお手上げです。降参です。
クイーンはヒントを堂々と提示しておきながら、その直後に読者の気をそらす天才らしい、というのは薄々感じはじめているので、次の作品を読むときはせいぜい丁寧に読みますよ。

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感想投稿日 : 2008年7月12日
本棚登録日 : 2008年7月12日

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