オープンサイエンス革命

  • 紀伊國屋書店 (2013年3月28日発売)
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集合知の話。それは圧倒的な人数であったり、圧倒的な人数から選ばれた人であったりするところが、これまでと違う。
専門家と一般人の知的レベルに差がなくなった。
圧倒的な人数がインターネットを通じて共通の話題を自由に論ずる環境が整ってきた。
などの要因で、仕事と関係なく専門家レベルの研究が爆発的に進展する。

野鳥の移動、天体観測、数学理論などでは圧倒的なパワーを発揮する。人海戦術だけでなく、質的にも威力あり。リナックスやウィキペディアもそう。

ただし、条件の限られた研究について、純粋なモティベーションのもとに成立する話。これを管理するのは至難の業。すべてが成功するわけではない。仕事になるとより難しいかもしれない。遊びだから、同じことでも面白がって、モティベーションを維持できる。飛躍の可能性が人を熱狂させ、参加させる面もある。いずれにしても、ボランティアであることは重要かもしれない。
学会だって集合知だが、オープンサイエンスのスピード感が圧倒的なのは参加する人数とこの熱狂による。

リナックスではモジュール化して各々の開発を進めたことが成功の鍵とされる。やはり管理が重要。
オープンソースの世界では、ある程度経験が積み上がっている。

また、オープンにされた膨大なデータ(データ自体の信頼性にもよるが)の集積をマイニングすることにより、新たな知が生成される可能性もある。そのデータ量はこれまで一人の学者が読んだ本や論文の数とは比較にならないくらい大きく、コンピューターによる検索技術や分析技術により、思いもよらなかった関係や法則を発見できる可能性がある。
宇宙の情報や遺伝子の情報(インフルエンザは公開されていないようだが)はオープンソースが整備され、誰でも見れるし、誰でも追加できる体制ができている。
当初、自己の利益との関係でクローズドだった研究成果は、オープンにすることで飛躍的にこの分野の進歩をもたらした。特許と同じで、そのバランスが大事だ。

インターネットで多くの情報が無料で得られることにより、論文、新聞、雑誌といった情報とのつきあい方も大きく変わろうとしている。論文の無料化も始まっている。これらの業界はビジネスモデルの根本的な転換を迫られている。有用な情報は有料なのか?有用な情報からさらに有用な情報を発信することを抑制してもいいのか?オープンソースの世界の成功は、既存概念を破壊しつつある。
そして、一般人がこれらの専門情報にアクセスできることもオープンサイエンスの土壌を育む要因の一つである。

産業革命において、ドイツで発達した職業としての研究(特に化学研究)はこれまで圧倒的な威力を発揮してきたが、オープンサイエンスのパワーはそれに勝るとも劣らない。まだ、海のものとも山のものともわからない状態だが、その片鱗を見る限り、ハマればすごいと思える。

ただ、人数が膨大でこれまでのような管理では無理だろうし、玉石混交を前提にしないと、従来の学会と何ら変わりないところが悩ましい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月29日
読了日 : 2016年1月29日
本棚登録日 : 2015年12月21日

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