医師の診療記録として、淡々と描かれていく「キム・ジヨン氏」の半生には、数えきれないほどの女性であるがための差別や苦痛が記されています。
韓国が舞台とはいえ、すべてがどこか身に覚えにあるような、知らない話ではないように、身近に感じられました。それは女性ならありふれている、男性ではないために自然と受け入れ、受け流し、呑み込んできた物事たちばかりだったからです。
でもそれは本来は、おかしいことです。
生命そのものを否定するような昔ほどではなくとも、今なお、れっきとした「差」「区別」は存在します。
それを、「キム・ジヨン」の名を借りた女性のかたちで、切々と、淡々と、浮かび上がらせていくこの小説は、フィクションとノンフィクション、ドキュメンタリーを併せ持ったような不思議な読み応えの作品でした。
けれども、間違いなく作者の堅固な意思があって描かれていた「小説」であることを、私はうかつにも巻末の解説で知りました。ジヨン氏の夫以外に、男性には名前が与えられていないということ。その明確な「区別」こそが、強烈なアピールだったのです。シンプルにその意味は強く鋭いメッセージとなって、この小説は多くの人々の心をつかんだのでしょう。
唯一作中で公平に誰にも降り注いでいたのが、雪のかけらでした。とても美しくて魅かれてやまない雪のひとひらは、けれどあえなく消えていく。もっと確かなものにあたたかく包まれる世の中になるよう、願います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
未設定
- 感想投稿日 : 2022年4月16日
- 読了日 : 2022年4月15日
- 本棚登録日 : 2022年4月16日
みんなの感想をみる