フライデーあるいは太平洋の冥界/黄金探索者 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-9)

  • 河出書房新社 (2009年4月11日発売)
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感想 : 15
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まずはトゥルニエ『フライデーあるいは太平洋の冥界』のみ読了。デフォーのロビンソンクルーソーで感じたモヤモヤがフライデーの暴走で鮮烈に晴らされる。しかしこれはロビンソンにとって恩寵であるかもしれないが、フライデーの行く末は思いやられる。フライデーの奔放で強烈な個性を発揮できる時代はまだきていない。射るような太陽の光を浴び、風を呼び寄せ奏でる音楽に充たされる瞬間、過去も未来もない冥界においてこそ全身を貫く存在の恍惚が潜んでいる。現実の文明社会に生きる自分にはそれは文学もしくは音楽の中にしか見いだせない。要するに他者に囲まれながらも私は孤独だ。

2015/11/24 追記
さあ!ル・クレジオ『黄金探索者』を。イメージの喚起力はここでも遺憾なく発揮され、もう溜息しか出てこない。モーリシャス島の、ロドリゲス島の自然の静謐さ若しくは荒れ狂う美しさの描写はどの一文をとっても息を呑むばかりだ。あの残酷な戦争の壮絶な悲しみにすら美しさが剥き出る。植民地の人々の貧困すらもだ。野生児のような少女ウーマの奔放で清廉な輝き、解放奴隷の少年ドゥニの自然との戯れ中で養われる俊敏性。灰色の都市で崩れゆく人々との対比は明らかだ。主人公の少年アレクシが希求する黄金がやがて精神の中で物質から非物質へと変容しゆくのは当然の帰結。こんなにも私を光ある場所に導いてくれるこのエクリチュールこそが黄金の宝物。いつまでもどこまでもその言葉に充たされていたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: フランス文学
感想投稿日 : 2015年11月13日
読了日 : 2015年11月13日
本棚登録日 : 2015年11月13日

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