天童荒太氏「あふれた愛」の読後はまず、
このタイトルに関して思いをめぐらせてみました。
「とりあえず、愛」「うつろな恋人」「やすらぎの香り」「喪(うしな)われゆく君に」
の4つの物語が集まって、「あふれた愛」。
男女間においても、親子間においても、
あふれるほどの愛情を注いだ人間たちは描かれていません。
愛することに、基本的には消極的だったり、
もしくは一方的に間違った愛し方をしていたり・・・。
愛情を注ぎすぎたからこその悲劇が描かれているとは思えないので、
もっとシンプルに、愛というものに真剣に向き合った結果、
他とうまくバランスをとることができなくなってしまった人間たちの物語、
という解釈が適当なのでしょうか。
「誠実」という、分かりやすいようでいて、なかなか実感できない性質が、
とてもストレートに表現されている点にも、感動を覚えました。
時折はさまれる邪気さえも、誠実さゆえの衝動といった扱いで、
読み込んでいくと精神が洗われるような心地になります。
また4作品とも、ラストシーンのすばらしさが印象的です。
高度な技術で、美しくつむがれていた物語が、
最後の最後にふっと色を変える。
その移り変わりも見事なら、最後をしめくくる色がまた絶品で。
そして最後の最後の最後、
この天童氏おなじみの謝辞(あとがきではなく、真摯な謝辞)
にまた、敬服させられます。
こちらからも、全身全霊をかけて、
読ませていただいたお礼を申し上げたくなる、
そんな謝辞だからです。
- 感想投稿日 : 2011年10月19日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年10月19日
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