世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」~ (光文社新書)

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  • 光文社 (2017年7月20日発売)
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現在のような複雑で不安定な世界では「分析」「論理」「理性」で判断するには限界があるため、美意識を求めるという本。

「はじめに」の段階でここまで残念な本はなかなかない。現在の世界を説明するのに「マズローの欲求5段階説」を持ち出してくる。これが現在では否定されていることを知らずに書いているなら救いようがあるが、長々とした脚注で「否定的なのも知っていてあえて書いている」と述べている。曰く、科学的に検証されていないからといって「偽」とは限らず、主張には「アート(直感)」と「サイエンス(論理)」の両方が必要である。だから筆者が直感的に正しいと考えたものについては、科学的根拠が薄弱でも使うのだ、と。

これはいろいろとおかしい。まずマズローの段階説は科学的に実証されていない (本当か嘘か分からない) というより、「データは否定を示している」というのが実情に近い。仮に段階説が真偽不明の仮説だとしても、やはり主張はおかしい。本書の主張は「現在のビジネスには美意識が求められる」であり、この主張を支えるための根拠を提示する必要がある。それなのに自分の直感で正しいと思うから仮説を根拠にするというのは、論理的におかしい。もちろん現実世界においては、全てを論理で説明することは不可能で、直感や体験でないと分からないこともある。しかしこのメディアは本であり、言葉と論理でしか伝達することはできない。それなのに直感を持ち出して説明するのはなんなのか。

さらに言えば、本書は美意識や直感に期待しすぎなように思える。直感の本質とはパターン認識であり、これが通用するのは「ルールが不変」で「フィードバックが早い」環境においてのみである。優れたデザインの製品開発のために美意識を鍛えるのは理解できるが、複雑で変化が激しい状況にパターン認識で挑むのは間違っている。おそらく著者は検証をしないタイプなのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年8月10日
読了日 : 2021年4月20日
本棚登録日 : 2021年4月20日

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