再読。
筑前の小藩・秋月藩での政争を題材にした歴史小説であるが、重層構造ゆえ、多様な読み方ができる。
①ビジネス小説として
本藩の福岡藩と支藩秋月藩との関係から、現代の親会社に対する子会社が独立を保とうとする抗争劇として。
②政治小説として
誰が味方で誰が敵か。裏切りと騙し合いが錯綜し、それぞれの心の内が読めない展開に。
「目の前の敵がいなくなれば、味方の中に敵ができる」「金が必要であれば、誰かが手を汚さなければならぬ」と、政治の要諦を示す語りが。
③成長小説として
幼い日の体験を反省し、「自らの大事なものは自ら守らねばならぬ」「逃げない男になりたい」と誓い、生き抜いた成長物語として。
④友情小説として
幼馴染7人の交流が清爽に描かれる。彼らが成人後、主人公の危機に助力することになる。しかし、その後立場を異にするが。
主人公が晩年語る言葉が心に残る。
「山は山であることに迷わぬ。雲は雲であることを疑わぬ。ひとだけが、おのれであることを迷い、疑う。それゆえ、風景を見ると心が落ち着くのだ」
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史小説
- 感想投稿日 : 2020年5月21日
- 読了日 : 2020年5月20日
- 本棚登録日 : 2012年7月30日
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