橘花抄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2013年4月27日発売)
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本棚登録 : 364
感想 : 42
4

著者の小説は、漢詩や和歌を巧みに取り混ぜ、清冽な作品をより格調高く仕上げている。
この小説も和歌を随所に用い、香道が加わることによって、さらに香(かぐわ)しい読み応えのある作品になっている。
そして登場人物に
「あなたは光を失いましたが、人の心の香りを聞くことはできるはずです。いずれ、あなたにとって大切な香りを聞くこともあるでしょう」と、語らせる。
「仏様の教えに耳を傾けるのと同様に、香りを法の声として聴くのが香なのです」とも。
香を人生における何者かに据えるような記述が続く。
当該の文献を参考にしているとはいえ、著者の博識には敬意を表する。

和歌や香道を織り交ぜながら、誇りを失わずに生き抜く男と、どのような逆境にあろうとも精いっぱい懸命に生きる女性たちを描いているこの小説。
著者は、人生において何が大切かを、読者に問うているのだろう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 時代小説
感想投稿日 : 2020年12月26日
読了日 : 2020年12月24日
本棚登録日 : 2020年12月26日

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