サイバー・インテリジェンス(祥伝社新書) (祥伝社新書 434)

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  • 祥伝社 (2015年9月2日発売)
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元陸上自衛隊システム防護隊長で情報、サイバー分野の経験がある筆者により、分かりやすくサイバーインテリジェンスの現代までの流れや、インテリジェンス分野での視座を与えてくれる。
読み物としても過去の有名な事象などを例にあげ、個人的な見解も踏まえながら、面白く読める一冊。

ソニーのハッキングやスノーデンの告発などを事例として、公表されている事実以外に、インテリジェンスの世界ならばこう読むという見解を示している。インテリジェンスの世界では公表されている情報は、それ自体が意図があり公表されていると見なければならない。筆者も含めて真実を知るのは難しく、推察の域を出ないが、情報を見る目を補強してくれる。

孫子以来のインテリジェンスの普遍的な原則、日露戦争でのイギリスのインテリジェンスの日本勝利への貢献、などからインテリジェンスの流れを辿り、インターネットの発展、海底ケーブルの重要性や衛生通信の特徴まで触れている。
サイバーインテリジェンスというと特別なものに思いがちだが、過去から人間は目的達成のためにインテリジェンスを利用しており、その延長線にサイバーインテリジェンスもあると捉えたほうがよい。

他方でサイバーインテリジェンスにも特徴はあり、報復による抑止の難しさ、犯人特定の難しさ、国際法の戦争法規が適用されない、など、他のインテリジェンス手法や武力手段よりも拡張した領域として考える必要がある。

アメリカはインターネットの地の利や自国のインターネット企業などを利用して、またテロとの戦いを建前に個人情報を多く搾取しインテリジェンスとして活用ている。
また、自国に有利である現状であれば、あらたな国際的なルールで制約などは設けず、むしろ自国に有利なようにルールや解釈を変える傾向にある。

サイバー領域では民間企業やインフラに対する攻撃も懸念となる。
アメリカのインフラは実は脆弱性が高いと言われている。国家としても民間企業にコストをかけたシステム刷新が強要できないため。
また、どの国でも民間企業が危ういのは、民間企業vs他国の国家など、の構図である。
民間企業もコストをかけて自社システムをサイバー攻撃から守ろうとするが、コストにも制限がある。攻撃元がが国家である場合コストでの対決ではどうしても不利になる。

日本はインテリジェンス機関全体に構造的欠陥がある。
これは、アメリカが第二次世界大戦後にうまく組み込んだ罠のようなものと言える。
陸上自衛隊はシギントに特化しており、自衛隊内に総合的なインテリジェンス機関が存在しない。
また、人事ローテーションが多いため専門家が育ちにくい。

日本は過去の歴史を振り返り、インテリジェンスがどのように国を救ったか、インテリジェンスを軽視するとどんな結末になるかを考え、構造的欠陥を無くしていく必要があると感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2023年7月11日
読了日 : 2023年7月11日
本棚登録日 : 2023年7月11日

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