ミステリーズ《完全版》 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (1998年7月15日発売)
3.08
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本棚登録 : 323
感想 : 33
5

一筋縄ではいかない作品を多数発表している山口雅也の短編集。
“密室”というキーワードを軸に、凝った構造で
奇妙な精神世界を描き出す『密室症候群』。
“笑い”に関わる仕事に携わる二人の男がたどった
数奇で馬鹿馬鹿しい運命の話『禍なるかな、いま笑う死者よ』。
やや下品ではあるが、心理の盲点を突いた仕掛けが巧妙で、
表題がうまく利いている『いいニュース、悪いニュース』。
人が音楽を聴いて感動する理由とは、という話から、
意外なテーマへと飛躍する『音のかたち』。
本格ミステリの定番パターンどおりだったはずの解決シーンから
連続して発生するスラップスティックな展開が愉快だが
最後に少しハッとさせられる『解決ドミノ倒し』。
テレビの公開捜査番組についての描写が進んでいくにつれ、
読者は不安を募らせていくが――『「あなたが目撃者です」』。
偉大な詩人であり、探偵小説の祖でもあるポーへの
オマージュに満ちた小喜劇『「私が犯人だ」』。
SPレコード蒐集に情熱を傾ける老人が
その情熱のあまり迎えることになる結末とは――『蒐集の鬼』。
終末の風景を、ヴィヴィッドな視覚イメージを喚起する
巧みな文章で描く『《世界劇場》の鼓動』。
奇妙なお茶会に集まった三人の男女が
「意識」や「<私>とは何か」といった哲学的テーマについて
議論した末に導き出される驚愕の結論――『不在のお茶会』。

多彩で多様な作品が集められた短編集だったが、
そのどれもが非常に洗練度が高く、
かつ切れ味が鋭いので、かなりの満足感を感じさせる一冊。

奇妙な味の作品もあれば、笑いが止まらない作品もあるし、
ミステリらしいトリックが鮮やかな作品もあったが、
そのどれもが“正統派”からは微妙に外れており、
その絶妙の距離感とスタンスが最高にクールだと思う。

今では、このようなタイプの作品も増えたとは思うが、
1994年当時、ここに収められた作品は
きっとどれも最先端だったのだろうと想像する。

また、多様な作品が収められた短編集でありながら、
収録作品には不思議な一貫性が感じられる、
というのも特筆すべき点だろう。

これは、どの収録作品にも、「ミステリー」という言葉が
それぞれの形で関わっているからで、
その作品ごとに「ミステリー」の意味合いは違っているが、
しかしやはりどの作品も「ミステリー」を扱っている、
という点で確かな共通点があるのだ。
だからこの作品群は、「ミステリーズ」という
絶妙のタイトルのもとでこそ、不思議な一貫性を持つ。
そう、個々の作品が素晴らしいばかりでなく、
この作品は、短編集としても非常に完成度が高いのである。

ここまで刺激的な短編集には初めて出会った。
マニアックな良さなのだろうとは思うが、
この飛びっぷりがたまらないのだ。
また、素晴らしい作家に出会えた、という気分である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 山口雅也
感想投稿日 : 2012年5月7日
読了日 : 2008年2月28日
本棚登録日 : 2012年5月7日

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