ウェディング・ドレス (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2008年2月15日発売)
3.19
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本棚登録 : 459
感想 : 70
3

結婚式当日、祥子は、婚約者のユウ君が
踏切を横断しようとして事故にあったという報せを受け、
病院へと急ぐ途中、二人組の男に拉致され、暴行される。
しかも、自分を拉致するためのでっち上げだと思われた
事故の話も事実で、ユウ君は帰らぬ人となってしまった――。
一方、ユウ君は、結婚式当日の教会で、
祭壇の上に引き裂かれたウェディング・ドレスを見つける。
その日から、婚約者の祥子とは連絡がとれなくなってしまう。
途方に暮れる彼は、偶然街で出会った、自分に似た男とともに
奇妙な猟奇殺人事件の目撃者となるのだが――。
祥子とユウ君の体験の奇妙な食い違い。
二人はパラレルワールドに迷い込んでしまったのか。
再び二人が出会うとき、不可解なジグソーパズルは完成する。
鍵となるのは、とあるアダルトビデオと、
祥子の母が遺したウェディング・ドレス。

各方面で活躍する、黒田研二のデビュー作。
第16回メフィスト賞受賞作品。

文庫化があまり進まないメフィスト賞受賞作品だが、
本作も、ノベルス版の発売から8年ほど経っての文庫化。
この機を逃したら一生手に取ることはないと思ったので、
発売直後に衝動買いしてから寝かせておいた一冊。

比較的キワモノの多いメフィスト賞の中では
逆に異彩を放ってしまうほどにまともな作品だった。

ただ、オーソドックスなミステリとは言えない。
殺人事件が起こり、その犯人を探す、
というようなパターンの作品ではない。

祥子パートとユウ君パート、どちらにおいても、
そちらに書かれていることだけを読めば、
これといって不思議なことは起こっていない。
作品中に登場する唯一のミステリ的なトリックは
藍田麻美という女性の殺害に関するものだけで、
それ以外には、特に不可思議な状況はないのである。

だが、二つのパートを交互に読むことで
読者だけが体感できる不思議さがある。
「二つのパートの奇妙な食い違い」がそれだ。

結婚式当日のそれぞれの体験が異なることに始まり、
その後もいくつもの「?」が登場してくるのだが、
最後にはそのすべてに納得のいく解答が用意されている。
ほとんどの読者は、仕掛けのおおよその“形”に
うすうす気づきながら読み進めることだろうが、
完全に真相を看破できる人はまずいないだろう。
そういった意味で、ミステリとしては及第点だと思う。

が、全体としてはそこまで絶賛する気にはならない作品である。
まず、
「あるときまで同じ体験を共有してきたはずの二人が
ある日を境に別々の世界に迷い込んだかのようになる」
という設定をもっと活かし、
不気味さをもっと強く打ち出すべきだと思った。
せっかく「パラレルワールド」という言葉まで登場させたのに
そのような演出をしないのはもったいないのではないか。
これが綾辻行人なら、二つのパートにもっと共通性を持たせ
それでありながらどこかが奇妙に違う、という書き方で
読者に強い眩暈感を覚えさせるようなつくりにするはずだ。

また、キャラクター造形も全然うまくない。
別に現実味がないと言いたいわけではない。
ハードボイルド小説の登場人物や、
伊坂幸太郎の小説に登場するキャラクターだって
現実味なんてこれっぽっちも感じさせないが、
でもそれらのキャラクターは作品の世界にハマっているし、
逆にそのキャラクターが作品世界を作り上げてもいるわけで
違和感のようなものはまったく感じさせない。
だが、本作では、キャラクターの不自然さが気になる。
高田崇史の小説を読んでいても同じように感じるのだが、
何がどう変に感じるのかは、まだ分析できていない。

あと、何もかもが結末に関連してくる構造はいいのだが、
祥子の出生の秘密や、作家の勝田の存在までもを
事件に絡めていくのは少々やりすぎではないかと思った。
その部分を削ぎ落として、もっとシンプルにしても良かったはず。

メフィスト賞は当たり外れが大きい賞であるが、
この作品は決して外れではない。
だが、当たりかと言われれば、森博嗣や殊能将之、
西尾維新、舞城王太郎などと比較したときに
どうしても見劣りがしてしまうというのも事実。

ミステリ好きは読んでみても損はしない。
だが、ほとんどの人にとっては、読まなくてもいい小説。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: その他(小説)
感想投稿日 : 2012年5月7日
読了日 : 2008年6月15日
本棚登録日 : 2012年5月7日

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