下巻は第十三歌から第二十四歌まで。神々の介入が解禁され、いよいよ激しく両軍がぶつかり合い血が流れる。パトロクロスの死をきっかけにとうとう出陣したアキレウスの鬼神そのものの戦いぶりは、行間から血煙がもうもうと立ち上るよう。
パトロクロスを失ったアキレウスの悲嘆は想像を絶する深さだった。パトロクロスの高潔で優しい性格が随所で強調されている。メネラオスを始めアカイアの武将たちが身を挺して彼の遺骸を守るところを見ると、パトロクロスは目立たぬながら皆に愛されていたのだろうか。
『イリアス』の世界ではアキレウスの行動や感情が全てを動かしていく。そういう意味でも彼は神に近いのだろう。殆ど一人でトロイエ勢を牽引しているヘクトルにはアキレウスのような我が儘は許されない。家族を愛し、戦士の名誉を守ろうとしながら、怒れるアキレウスに全てを踏みにじられるヘクトルが気の毒。彼の物語もまた読んでみたくなる。
全篇に渡り戦闘場面の勇壮さは比類がない。血湧き肉躍るとはこのことか。人物描写は近代文学のそれとは全く異なるけれど、彼らの熱量に圧倒される。
『アキレウスの歌』を読んでの再読で、パトロクロスの人物像が自分なりに掘り下げられたように思う。こうして他の本を読んでは立ち返ることでまた深く味わえるのが『イリアス』なのだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
海外 - 叙事詩
- 感想投稿日 : 2015年1月18日
- 読了日 : 2015年1月18日
- 本棚登録日 : 2015年1月18日
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