望郷

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年1月30日発売)
3.39
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本棚登録 : 2806
感想 : 315
5

6つの短編で構成されている作品
全てが白綱島という瀬戸内海にある島を舞台にしており、過去のエピソードと現在のエピソードを行ったり来たりしながら結論に向かってく
この辺りは湊かなえ先生作品のだいご味であり、それを6作品も楽しめるという良作である

全体的に「イジメ」についてもよく語られている
大人になった今はイジメなんかしてはダメ、自分の子供にはそんな事をしてほしくないし、当然ながらされてもほしくはない
イジメなんてなくなってほしいと思うのだが、自分が子供の頃もイジメはあり、その頃に今と同じ考え方はしていなかったなぁ

・みかんの花
ある姉妹がメインで語られていく
姉は都会住みで知られた作家
もともと島は一つの市だったが他の市に合併されることになり、島の最後のセレモニーに呼ばれて久しぶりに島に帰ってきた姉に不満を持つ妹の視点で描かれている

姉は高校卒業の頃に駆け落ちしており、島に残った妹は母と一緒に苦労が絶えず、そこに不満を持っているのだ
しかし、読み進めると妹の理解は一面的な理解でしかなく、姉は姉で苦労してきたことが描かれる
実際にはエグい事が発生しているのだが最後は爽やかさすら感じる作品になっている

・海の星
母子家庭の男の子とおっさんがメインで語られていく
男の子の家は父親が失踪(突然行方不明になった)した事で母子家庭となっていた
突然そのような状態になった事で貧乏になった男の子は釣りで食料を確保していたところ、漁師のおっさんに出会う

おっさんは母子家庭に入り込むようになり、母子家庭の家計を助けるようになっていった
男の子には「おっさんは母を好いている」と映っていたが、後にそういう話ではないという事がわかる
こちらも爽やかな読後感を感じる作品

・夢の国
あのネズミさんの国をモチーフにしたと思われる夢の国
メインに描かれている女性は夢の国に行くことが夢だったが、子供の時には家庭の事情でそれは叶わなかった

修学旅行で夢の国に行く学校に入ったが、自分の年から別の場所に変わってしまうという不運
それが縁で男性と結婚することになり、築いた家庭で夢の国に訪れる

夢の国を中心に一人の女性の人生を振り返るような作品

・雲の糸
あの蜘蛛の糸とかけたタイトル
主役は島から東京に出て新進気鋭の歌手として活躍している男性
島にいたころは母がやってしまった事が原因でイジメにあっていたので嫌な思い出しかなかったが、歌手になった事で地元の名士的な友人(実はイジメていた張本人)から何かの会の挨拶を求められる

自分が利用されているように感じた
自分は蜘蛛の糸を握って自分で這い上がったのに、下を見ると自分をイジメていたヤツや知らないヤツが同じ糸を上ってきている

空を見上げるのも好きだったので、それとかけて雲の糸というコトですね

最後は母がやってしまった事の真実が語られ、こちらも爽やかな読後感

・石の十字架
現在、島に台風が来て、娘と家に取り残されてしまったというシーンから始まる

メインは女性
元島民だが一度都会に出た
娘が不登校になった事で島に帰ってくるという決断をした

いつも通り過去と現在を行き来しながらストーリーが展開していく
小さいころに仲良かった女の子
大きくなってから疎遠になりつつもどこかでつながっていたという事なのか
不思議な読後感

・光の航路
小学校の先生になった男性がメインのストーリー
他にも小学校の先生が二人出てくる
一人はメイン男性の父親、男性は早世してしまった父親の影響を受け小学校の先生になっていたのだった
もう一人は男性の先輩

以下2つの軸でストーリーは展開していく
<現在のイジメ軸>
小学校でイジメがあり、男性はその対策に腐心していた
<過去の進水式軸>
島では昔、造船業が盛んであり、完成した船の進水式が島民みんなの行事のようになっていた

その中で「先輩である先生」から「父親である先生」についての真実が語られていく
その中で「先生としての自分」がやるべき事も見えてくる
後ろから背中を押されるような

こちらも爽やかな読後感

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 人生
感想投稿日 : 2016年12月27日
読了日 : 2016年12月27日
本棚登録日 : 2016年12月27日

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