ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス 51)

  • 白水社 (1984年5月20日発売)
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三分の一まで読み進めて物語の道筋に不安を覚え、三分の二まで目を通して諦めの境地に入り、残るページはさもケッサクかのような錯覚を起こしながらくまなく視線を走らせた。
読後の今、何事かを無性に言いたいのだけれど、この作品を評する取っかかりを全く見出せない。とりあえず何か適当なことを喋りながら批評するかと見切り発車しようものなら、すぐさまホールデンの奴が意識上に迫り上がってきて(あからさまにホールデン語の影響が表れた言い回しをするのが悔しいのだが)気が滅入っちゃう。

本書を半ば読み進めたあたりで、ホールデン語でブクログのレビューを書いたら面白かろうと思って彼の文体研究に取り組んだ時間があった。しかし徐々に気づくことになる。とくに技巧を凝らさなくたって自分はホールデンになれるのだと。というか、すでにぼくは、往々にしてホールデンである。むしろホールデンじゃない状態とは何かを冷静に分析できないぐらいだ。カミュの描いた異邦人ほどに<異>と切り捨て、嘲えない。
デリンジャー現象が電波通信を妨害するものであるなら、サリンジャー現象はさながら、言語を介した意思疎通をつまずかせるものだと言えるのではないか。話すとはどういう行為か、また人の発話を聞くとはどういう行為か、サリンジャーはその問題をわざわざ問い、読者を不安に叩き落とす。しかも、この落下を受け止める地表は(本書で丁寧に言及されているとおり)無い。

……これには参っちゃったな、ぼくも。ほんとだよ。

読書状況:積読 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年3月6日
本棚登録日 : 2023年3月6日

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