大村智物語: ノ-ベル賞への歩み

著者 :
  • 中央公論新社 (2015年11月27日発売)
4.00
  • (5)
  • (10)
  • (5)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 80
感想 : 19
4

子供のころは伝記が好きでいろんな人の伝記をよく読んでいたので、この本はどことなく懐かしい感じをうけた。ライターが書く評伝ではなく大村氏を尊敬してほしいと願って書かれた物語である。

それにしても、農作業で培った段取り力、だそうだが、大村博士の物事のキモを見抜き人を巻き込んで動かしていくビジネスセンスはずぬけている。病院の用地獲得交渉や美術館の設立など、ノーベル賞以外にもずいぶんと実業面での功績を残されているのを知った。こんな人だったんだな。
夫人の活躍も内助という観点でなく一人の女性のありかたとして魅力的に書かれている。

ちなみに大村博士は、こんにち、新型ウィルスとイベルメクチンについて、座右の銘を引いて「『至誠天に通ず』の意味は、真理は必ずや風説に耐え得る、真理がやがて明らかになり、うそは負けるということ。その信念を持ちながら私はサイエンティストの立場から、今回のことも見守りたいと思っています。」と語っているそうである。

P29 「教師たる資格は、自分自身が進歩していることである」(大村の母の日誌)

P93 研究というものは器具や装置ではない。やはり頭で勝負するものなのだと思ったのです。

P142 アメリカは、このような割の合わない仕事をみんなで体制を組んでやるということは、あまり得意ではないのです。それをよく知っている大村は、効率のいいスクリーニングの手順を開発し、役割分担をしてチームワークを汲む共同研究は、日本人のほうがうまいと考えていました。その認識は、モノづくりで世界トップを極めた日本の製造現場で日ごろ行われている、「暗黙知でみんなが動く体制」と重なるところがあります。

P193 「研究を経営する」という言葉は大村の造語です。

P226 大村は「経営」という言葉の意味に人間形成という意味があることを知りました(夕霧の経営・・)【中略】自分を磨くとは、リーダーシップ、柔軟性、アイデア、情報収集力、協調性、応用術など、多角的な能力を一定のレベル以上に保持することです。【中略】桶を形成する板のうちどこかが破れたりひびが入っていたり、低い板になっていればそこから中の液体が漏れてしまい、一番低い板のレベルになってしまいます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2021年11月24日
読了日 : 2021年11月22日
本棚登録日 : 2021年11月24日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする