そのビジネス課題、最新の経済学で「すでに解決」しています。 仕事の「直感」「場当たり的」「劣化コピー」「根性論」を終わらせる

制作 : 今井誠  坂井豊貴 
  • 日経BP (2022年4月21日発売)
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1章 ビジネスパーソンの「武器」としての経済学
■まとめ
・経済学は、暮らしの改善やビジネスの利益拡大に役立つ武器である。
・「学知というサイエンス」「現場への実装というエンジニアリング」こそ、経済学のビジネス活用の軸。
・「経済学にできること」のざっくりとしたイメージをもっておくことで、いざ必要になったときに、スムーズに適切な経済学者と出会える。
・「付加価値を上げる?コストを下げる?」などの問いに対して、経済学は第三の選択肢を提案しうる。
・これからの経済学にとって、ビジネスでの実用・政策提言・純粋な研究は、すべて大切な存在意義である。
・経済理論には、ビジネスの多様な現場に合わせたカスタマイズの可能なものも。「経済学×ビジネス」の素敵なマッチングで、ビジネスの新たな可能性が開ける。

2章 オンライン上に新しい市場をつくる
■まとめ
・オンラインの販売サイトには市場設計の知見が有用。
・締め切り直前の応札合戦にはいくつか対処の方法があるが、状況に応じて丁寧に選ばねば失敗する。
・よいユーザー体験を与えるためには既存研究の精査が不可欠。
・「車輪の再発明」は費用と時間のムダ。学問というデータベースをフル活用すべし。
・科学と職人感覚は補い合うことが大事。

3章 利益を最大化するツール「FSP-D」モデルの基礎知識
■まとめ
・情報化社会、デジタル革命が、既存ビジネスの衰退と新規ビジネスの勃興を引き起こしている。そのなかで「FSP‐D」モデルを用いたビジネス戦略を立てることが、今後の勝負の分かれ目になる。
・「F=無料」で提供することで、多くのユーザーを手っ取り早く獲得し、ユーザーが多ければ多いほど顧客満足度が高くなる「S=ソーシャル」の「ネットワーク効果」を活用できる。この戦略により適しているのは、増産コストがかからないデジタル消費財である。
・ソーシャルメディアの普及により、人々の消費行動は「口コミ」「シェア」がベースになっている。その効果を活用するのがもう1つの「S=ソーシャル」であるソーシャルメディア・マーケティングである。
・「P=価格差別」の中でも利益を最大化する仕組みは、ヘビー~ライトユーザーすべての需要を取り込む「多段階価格差別」である。
・「D=データ」の分析が、FSPすべての根本となる。

4章 世界標準の学知に基づく新しい顧客関係管理
 実務では新規顧客キャンペーンや既存顧客キャンペーンとして別々に掛けるコストを決めて実施することがありますが、CRMの思考法は一気通貫です。つまり、
①新規顧客獲得においては、相応の営業や広告、販促コストを掛けてでも「利益をもたらす顧客」なら獲得し、コストに見合う利益をもたらさない顧客ならコストを掛けてまで獲得しないこと。さらに獲得時の営業や広告、販促といった各種手段にどれだけコストを配分するか決めること
②既存顧客維持においては、その顧客が他社に乗り換える可能性や自社顧客であり続ける場合の利益額を踏まえて離脱防止のための施策を打つ、あるいは打たないこと
③これらを利益の指標である顧客生涯価値(LTV:Life-Time Value) で統 一的に管理する、場合によっては全社の利益最大化の観点から新規顧客獲得と既存顧客維持にどのようにコストを配分するか、さらには営業、広告、販管のコスト(投資)の比率や総額そのものを決めること

 ここではその例の1つとして、4か国の携帯電話会社のデータを用いた有名な研究を取り上げましょう(Minら2016)。
 ここでは4半期ごとの新規加入者数と現在の顧客から離脱率を計算し、また販促費の変動と新規顧客数・維持された既存顧客数の関係から成立する式を導いて、1人の新規顧客獲得のコストと既存顧客維持コストを出しています(図)。
 結果として得られた知見のうちいくつかを紹介します。
①原則として既存顧客維持コストは安い(1新規顧客獲得のコストは1既存顧客維持コストの平均2~5倍)
②競合が増えると新規顧客獲得コストは増える。一方、競合が増えても顧客維持コストは変わらない
③顧客維持はリーダー(トップ企業)とフォロワー(2位以下)で変わらない
④リーダー企業の新規顧客コストは、その製品・サービスが普及すると大分下がる。その理由としては、新しい製品やサービスを後から利用するようになった顧客(有名なロジャースの分類でいう後期大衆)はリスク回避的であり、最大手を選ぶためだと思われる
 つまり革新的な製品やサービスは競合が増える前にどれだけ新規顧客を刈り取るかが重要であり、一方、もしあなたがフォロワー企業の立場なら、早期であればまだ新規顧客獲得が重要であるが、成熟期なら既存顧客維持が重要であることを示唆しています。

■顧客生涯価値の計算にはどんな情報が必要か?
 顧客あるいは顧客のタイプ(セグメント)ごと、場合によっては契約種別ごとに、
①離脱率の予測値を出す(ここが肝)
 顧客のタイプや契約形態、利用形態が同じような人"での過去の離脱率から計算
②月間あるいは年間の収益の予測をする
“同じような人”での過去のデータや経済状況による変化などから計算
③コストの計算をする
 獲得コストと獲得確率、および獲得後の維持コストから計算
が必要となります。
 獲得コストはBtoCであれば広告や新規顧客への値引きなど、BtoBであれば営業活動のコスト、コンペへの対応費用、初年度の契約の優遇による利益減少額などです。

 本来投資すべきは、新たな利益となる新規顧客と、まだまだ自社にもたらしてくれる利益に「伸び代」があるライト~ミドルの顧客です。
 一方、上顧客がロイヤル顧客であって「貴社だけから購入している」とすれば、追加で購入させることが難しいのは当然ですね。すでに伸び代いっぱいまで利益をもたらしてくれている上得意は、追加購買という、投資に対するリターンは低いと見なすべきなのです。
 上得意よりライト・ミドル層の顧客のほうが割引やポイントプログラムの効果が高いという結果は、非常に多くの研究で報告されています。
 例えば小売業のポイントプログラムについての有名な研究(Liu,2007)では、図のように、ポイントプログラム開始時点でヘビー・ミドル・ライトの3群に顧客を分けると、開始後の顧客の購買頻度や購入量はヘビーではほとんど増えず、一方ミドル・ライトで上昇していることが分かります。

■まとめ
・顧客は「自社に利益をもたらす存在」であり、「中長期的にどれくらいの利益をもたらしてくれるのか」(顧客生涯価値)で、その顧客に対する投資額(金銭的・時間的・人的)を決めるべきである。
・顧客生涯価値の計算に基づかないCRMシステムは何の役にも立たない。
・BBにおいても営業すべき先の選定などで顧客生涯価値の計算は重要。
・顧客生涯価値に基づく施策決定にあたっては顧客データがなくてもシミュレーションはできるが、精度を上げるにはデータ分析が必要。
・一律投資よりも、「高いリターンが見込める顧客に集中投資」のほうが、効率がいい。
・獲得したい新規顧客が、中長期的に投資額を上回るリターンをもたらしてくれるのなら、多額の初期投資をしてでも獲得すべき。
・原則として上得意の既存顧客に値引きなどの「金銭的なベネフィット」は愚であり、「特別扱い」を感じさせる「非金銭的なベネフィット」が効く。

5章 会計とESG 価値観とルールの大きな変化をざっくりつかむ
■まとめ
・会計は企業の一つの全体像を写す 「カメラ」。
・会計への理解を深めることが、世の中や経済そのものの理解につながる。
・近年、金銭で価値を測りにくい要素で企業価値を測る動きが盛ん。 ESGはその代表例。
・ESG投資の流れが盛ん。企業はESG投資を受けられるように動く。
・ESGによって、企業に求められる価値、ビジネスで生み出すべき価値が大きく変化していくことは確実である。

6章 ダメな会議はなぜダメで、どうすれば改善できるか
 結論をまとめると、独立した人々による目的の共有が、集団がうまく機能するための条件です。陪審定理以外の集団の意思決定に関する定理でも、大抵これと同様の結論になります。
 一例を挙げましょう。コンドルセは社会科学に数学を持ち込んだ開祖のような人です。彼が蒔いた種は20世紀になってから、まず経済学、続いて政治学や社会学で実りました。そこで近年得られた重要成果のひとつに、多様性定理があります。本当の名前はもう少し長くて「Diversity Trumps Ability Theorem」、直訳すると「多様性は能力に打ち勝つ定理」です。
 この定理は「さまざまな認知能力を使って解決する必要がある問題を解く際には、多様な人々の集団のほうが一人の高能力者よりも早く問題を解く」ことを示しています。
 人間の認知能力には広いバラエティがあります。私たち一人ひとりは、それぞれ得意なことが異なっている。「さまざまなメンバーが自分の能力を会議に持ち寄るとよい」というのが、多様性定理が会議の研究に教えることです。そして、この多様性定理においても、目的の共有と独立性は必要です。
 より砕いていうと、集団での意思決定においては、人々は同じ方向を向かねばならない。そのためには組織のミッションやビジョンを共有し、かつ利害も共有する必要があるでしょう。

 私なりの答えを申し上げます。1人と複数人のパフォーマンス比較では、ほぼすべての実験で、複数人のほうに軍配が上がります。そして、4人や5人から人数を増やしても、パフォーマンスはとくに上がるわけではなく、全体としては下がる傾向が強いです。
 では4人と5人とでは、どちらがよいのか。私は5人を推します。メンバーの間で意見が割れたとき、奇数なら賛否同数にならず、多数決で決定を下せるからです。5人だと各人の発言時間も確保できますし、各人が自分の存在感を感じられます。
 では3人と5人ではどちらがよいのか?はっきりした答えはありません。実験によっては、3人から人数を増やしても、集団のパフォーマンスは上がらなかったと結論付けるものもあります。
 あとは現場で判断ということになるのだと思います。それでも適切な参加者数は3人から5人程度と、範囲を絞れました。この知見は非常に便利です。

■まとめ
・会議では、みなで目的を共有することと、他の参加者に忖度しないことが決定的に大事。
・参加者が自由に発言しにくい空気をつくる者は、会議に入れないほうがよい。
・人数が増えるにつれ、多数のメリットが増えていくにせよ、増え方は減っていく。一方、人件費は人数と同じペースで増え続ける。
・「何となく」や「念のため」で会議の参加者を増やすのはダメ。
・集団は個人の総和ではない。人数を増やしたせいで、人々のやる気の総和は減りうる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2023年10月21日
読了日 : 2023年10月21日
本棚登録日 : 2023年10月21日

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