ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用

  • ダイヤモンド社 (2015年7月10日発売)
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 長期的関係のために定期的に仕事を変える一見矛盾しているようだが、これが「コミットメント期間」(ツアー・オブ・デューティ)の枠組みの真髄である。
「ツアー・オブ・デューティ」はもともと軍隊用語で、任務や配置の割り当て一回分を意味する。軍に属している間、通常なら兵士は複数回のコミットメント期間を務めることになる。ちょうど社員が一つの会社や自分のキャリアの中でさまざまな部署やプロジェクトにいくつも取り組むのと同じだ。


1. ローテーション型
 ローテーション型のコミットメント期間は社員ごとにパーソナライズされておらず、概して互換性が高い。ある社員を既定の職務に就けたり外したりという交換が簡単にできる、ということだ。
 ローテーション型にも二つのタイプがある。一つ目は、体系化された有期の制度で、通常は新卒や経験の浅い社員を念頭に置いたものだ。たとえば、投資銀行や経営コンサルティング業界には二~四年のアナリスト・プログラムがある。プログラムに採用された社員は全員、決まった基本ローテーションを経験する。決められた期間、一回限りで終わるのが一般的だ。こうしたプログラムはたいがい、「高速道路への入り口ランプ」として明確に位置づけられている。 新卒者を学校から職場へ、転職者を前の 会社からあなたの会社独特の職場環境へと誘導しながら加速させるのだ。
 シリコンバレーのトップ企業も大半は、ローテーション型のコミットメント期間モデルを導入している。 新人レベルの社員を採用して、「同期」として実地研修するのだ。新人レベルの社員を採用して、「同期」として実地研修するのだ。たとえば、グーグルのピープル・オペレーションズ(人事)部門は、新卒の社員に体系化された二七カ月のローテーション型コミットメント期間を提供している。新人は九ヶ月ごとのローテーションを繰り返し、三つの異なる職務を体験することができる。フェイスブックも新人のプロダクト・マネジャーのために同様のモデルを採用しており、一八ヶ月の期間に三カ所の異なるプロダクト・グループをローテーションする。リンクトインにも“ローテートイン”と呼ばれる部門横断的な研修プログラムがある。
 この種のローテーション型コミットメント期間の目的は、会社と社員の双方に長期的な相性を見極める機会を与えることだ。相性がよいようなら次のステップに進み、よりパーソナライズされた第二弾のコミットメント期間を設けることで、相性のよい分野をさらに活かす。もしどちらか一方が相性がよくないと感じたなら、その社員はおそらく会社を辞めるだろう。ただし、それが本人の汚点になったり会社との関係悪化につながったりすることはない。
 ローテーション型コミットメント期間にはもう一種類あり、これは新人からベテランまであらゆる社員に適用できる。このタイプのコミットメント期間はきちんと体系化され、大半が制度化されている点で、一つ目のタイプと似ている。しかし、この夕イプの主眼は、その社員を将来の別の職務に向けて訓練することではなく、現在の職務と社員の相性を高めることにある。ブルーカラーの仕事は大半がこのタイプに当てはまる。たとえば、特定の組み立てラインで働くことは一つのローテーション型コミットメント期間と考えられる。同様に、UPS(宅配業者)のドライバーは、ローテーション型コミットメント期間にいるといえる。このタイプは定型化、体系化されており、比較的スムーズに人材を入れ替えられる業務内容だ。


■期間の枠組み
1.ローテーション型
設計:入社してきた従業員は自動的にここに組み込まれる
契約の狙い:会社との相性が将来的にどうかを評価する。ごくふつうの雇用で使われる
期間:典型的なアナリストプログラムでは通常1~3年。その他のローテーション型は期限なし
更新:引き続き新たなローテーション型を始める場合もあるし、変革型に移行する場合もある。コミットメント期間終了後に会社を辞めることに道義的責任はほとんど(まったく)ない

2.変革型
設計:個別交渉で決まる
契約の狙い:従業員のキャリアを一変させる。会社に大きな変革をもたらす
期間:職務ごとのミッションに応じて個別に決まる。通常は2~5年
更新:職務上の使命を完了する前に、会社に残って新たなコミットメント期間に入る交渉をまとめる。そうでなければ他の会社に転職する

3.基盤型
設計:個別交渉で決まる
契約の狙い:会社とっては、コアバリューを守り伝える役割を果たしてもらえる。従業員にとっては、仕事から大きな目的と意義が得られる
期間:期限なし
更新:双方が関係の永続を前提とし、関係維持に全力を尽くす

 ローテーション型は会社に「規模拡大」をもたらす。新たに大勢の社員を雇って、職務内容が安定した、誰もがよく知る仕事に就かせることができるからだ。ローテーション型は標準化されているため、採用も実施もしやすい。特に大規模に行いたい時には効果的だ。
 変革型は「適応力」を与えてくれる。会社が、新たな必要スキルと経験を得る一助となるからだ。伸び盛りの業界は競争が激しく、技術の変化は急速で、人材争奪戦も激しいのがふつうだ。こうした業界で成功するには「創業者マインド」が不可欠であり、それはつまり、会社が変革型の社員を高い比率で雇わなければならないことを意味する。
 基盤型は会社に「継続性」をもたらす。長期的目標を見据えた社員が会社にい続ける仕組みになるからだ。経営幹部チームは全員が基盤型であるべきだ。


■部下との対話マネジャーへの助言
 価値観を一致させる整合性の作業には長い時間がかかることもある。そして、粘り強く対話を続けながら深い信頼を築いていくことが求められる。常に前回話し合った内容を土台にし、一回ごとに内容を深めていくのがいいだろう。

・グループで価値観をすり合わせる
 ほとんどの会社には文章の形で表現された価値観がある。大半は「高品質を目指し全力を尽くします」といった無害な常套句の羅列であり、知性への侮辱といっていい。あなたの会社の公式な価値観にまともな中身がなかったら、自分のチームのために勝手に価値観をつくってしまおう。当然のことだが、内容のある価値観づくりには、CEOがアライアンスを自ら実践し、自ら作業を率いるのがベストだ。
 CEOと幹部チームが会社の価値観のたたき台をつくり、それを幹部ではない基盤型の社員たちに広く読ませ、批判や意見をオーブンに取り入れながら改善していくのがいい。CEOは社の中核にいる基盤型社員の賛同を先に得てから、このプロセスを全社に広げよう。
 一〇〇〇人に及ぶ全社員をCEOが大ホールに招集し、その場でみんなで話し合ってゼロから価値観を生み出すよう命じるなど不可能だ。とはいえ、真逆のやり方、すなわち、CEOが自分好みの価値観を決め打ちして、それを「自発的に」受け入れるよう全社員に要求することもできない。
 社員が七五人より多い場合は、部署横断的な小グループに振り分けるといい。それぞれ個別に会議を開いて、CEOチームのつくった価値観のたたき台について議論してもらうのだ。こうした率直な対話から浮かび上がってくる会社の真の姿は、経営幹部が予想もしなかったものになるかもしれない。しかし、「自分たちには社会的使命を重視するカルチャーがある」と経営陣が思い込んでいる企業で、実はカネだけで動く傭兵のような姿勢に満ちていた、というケースは非常に多い。マネジャーは自社の真の企業文化を理解しておく必要がある。

・部下の個人的価値観を一対一ですり合わせる
 直属の部下とは一人ずつ一対一で面談し、部下の核となる価値観とありたい姿を明らかにし、その価値観と会社の価値観がどうそろいそうかを話し合う。なにも個人的な価値観を社内のイントラネットで公開しろとか、自分の社員証の余白に書き記せ、などと要求する必要はないが、彼らの価値観とありたい姿を「なんとなくの手がかり」から「明確なポイント」へと転換する必要はある。部下の目標を知らないマネジャーに、どうして変革型コミットメント期間を設計することができようか?

・心を開いて信頼を得る
 部下が大事にしていることを知れば信頼関係の構築に役立つ。ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の心理学者アーサー・アーロンが行った実験では、被験者に心の奥底にある感情と信念を打ち明けてもらうと、通常なら数週間から数カ月、時に数年もかけて形成されるような信頼感と親しみが、わずか一時間で生まれることもあと判明した。「今までで最高の同僚はどんな人でしたか?」とか「どんな瞬間に自分のキャリアを最も誇らしく思いますか?」といった率直な質問をすれば、心理的な距離感を縮めることができる。
 ただし、率直な質問をする相手が部下の場合、背後にある力関係のせいで高圧的に感じさせる可能性があることを心にとめておかなければならない。だからこそ、最初にあなたのほうから心の奥底にある価値観やありたい姿を打ち明けて口火を切ることが重要なのだ。前述のアーロンの実験でも、お互いに自分の心のうちを開くような回答を相手に伝えるよう、被験者に求めていた。
 ブラッド・スミスはこの手法をインテュイットに取り入れている。「面接では必ず最初にこう聞きます。『三分から五分で今までの人生をざっと語り、どのように今の自分になったのかを教えてください。その中で、あなたがどんな人で、どのようにビジネスやリーダーシップに取り組むのか、私たちが理解する手がかりとなるような大事な瞬間に触れてください。たとえば、いじめや愛する人の死、大きな選択を間違えた時などの逆境にどう対処したかといったことです』」。この手法のポイントは、まず質問者が自分の話をすることだ。面接者に実例を見せると同時に、脆さをさらけ出してもいいのだというお手本を示すことにもなる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2023年6月18日
読了日 : 2023年6月18日
本棚登録日 : 2023年6月18日

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