この本はクラシック音楽の入門書の様な体裁をしているが、実は中級者以上向けだ。
文章が読みやすいので、入門者にも優しく、さらさらと読めるが、これからクラシック音楽を聴いてみようと考えている方や、ビギナーの方が読むには適さない内容である。
いや、入門者に適さない内容どころか、最初の数冊としては読まない方が良い本であるとも思える。
たしかに、ソナタ形式は提示部があって、ここからが展開部で〜みたいな説明があるので、それは入門者に有用な情報だと言える。しかし、取り上げている曲がたったの3曲だけなので(あとの2曲は流しすぎ)、取り上げられた曲に対してだけは、ある程度理解した気になれるといった程度の内容でしかない。
当然これだけで、クラシック音楽が理解できるわけがない。もっとこの路線で何曲も紹介していれば、入門者向けの良いガイド本になったことだろう。
私が入門書として適さないと思ったのは、許氏は裏の裏までに知っている真の理解者で、著者以外は誰も書かない真実を教えようという立ち位置で書いていることだ。
だから、ある程度クラシック音楽に通じていないと、読者は、許氏だけが真実を知っているすごい人で、この人の言っていることこそが真実なのだと信じてしまい、誤った先入観を抱いてしまう可能性が高い。
他の人が書いた入門書も読んでみようと思う人なら良いが、この一冊だけを入門ガイドとするのは危ない。
一例を挙げれば、「チェリビダッケは最高だ」と、たびたび書いてあるので、ビギナーがこの本を読んだら、そうか、チェリビダッケが「正しい」演奏をする最高の指揮者なのか!と思ってしまう可能性は高い。そして、まず、チェリビダッケの演奏から聴いていったとすれば、どうなるだろうか。「これが、最高のクラシック音楽なのか。うーん、やっぱりクラシック音楽は私には合わないな」と思ってしまう可能性が高いのではないだろうか。
せっかくクラシック音楽に興味を持ったのに、色々な演奏家を聴いて行こう、先に進もうとは思わなくなる危険性がある。
私はクラシック音楽のアルバムを何千枚も持っているので、チェリビダッケも何枚も持っているが、やはりチェリビダッケは異端であり、玄人好みの指揮者であると思う。
チェリビダッケは、一つの曲を様々な指揮者で聴いて、ある程度曲のイメージを持った上で聴かなければ理解できないような指揮者であり、どの演奏をとってみてもビギナー向けのファーストチョイスにはなり得ない。
これは私だけの意見ではなく、世間的な評価から見ても、そう言えるだろう。
一例だけを挙げて、この本は入門者向けではないということを書いてきたが、中級者以上なら、笑い飛ばせるところや、うなずくところもあり、面白く読めるだろう。本書の3分の1以上を占める第4章の「コレッキリ!実用情報」は特にそうだ。
この本は全体として見れば、許氏が書いた本の中では、頑張って書いた本で、力作という感じは伝わってくる。決して悪い本ではない。クラシック音楽愛好家なら、読んで損はない。入門者には向いていないだけだ。
- 感想投稿日 : 2021年10月10日
- 読了日 : 2021年10月10日
- 本棚登録日 : 2021年10月5日
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