東京裁判への道(下) (講談社選書メチエ)

著者 :
  • 講談社 (2006年8月11日発売)
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感想 : 3
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裁判そのものの成立過程を追いかけた上巻に対して、下巻で主に扱われているのは、A級戦犯(候補)、あるいは毒ガス戦といった個々の人物や戦争犯罪といったもの。
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裁判が長期化し、世界情勢おいて冷戦構造が出現したため、第二段、第三段と開かれる予定であった東京裁判の存続が難しくなり、多くのA級戦犯候補達が釈放された経緯、その他、検察の尋問ファイルを基にした石原莞爾、真崎甚三郎が不起訴になった内幕等々が詳細に描かれている。
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ここで釈放されたり不起訴となった戦犯候補者達は、裁判記録が後に公刊されなかったことを利用して、自身に都合の良い通説を作り上げ、戦犯候補になったことを「勲章」として活用することで、戦後の日本社会で地位を築いていく。例えば笹川良一の美談が虚飾に満ちたものであることが指摘されていて興味深い。<BR>
本書の最後は、広田弘毅の有名な有罪判決の経緯についてか書かれているのだが、ここで広田の起訴理由として、近衛文麿に代わって起訴されたと指摘されている。本書では、上巻の冒頭で、近衛文麿の自殺と不誠実な内容の遺書が批判されおり、下巻においては真崎甚三郎の検察当局への取調べに対しての節度の低い対応が否定的に描かれている。
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これらを考えると、本書は、東京裁判の成立過程を追いかけつつも、裏テーマとして裁判に対する多くの日本人のカメレオンのような不誠実な対応への警鐘が語られているのでないか、と読み終えて思った。
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最後、著者は東京裁判について特定の史観に束縛された見方に疑問を呈している。裁判そのものについて、語りたがる人は多いが、一次資料の発掘、調査を行う人物は日本に10人もいないとも。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: History
感想投稿日 : 2007年4月13日
本棚登録日 : 2007年4月13日

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