『源氏物語』のなかで「物語の出で来はじめの祖」と称されるなど、わが国の文学のなかでもとりわけ古い歴史をもつことで知られる作品。講談社学術文庫版の冒頭で触れられているように、じつにさまざまな要素が含まれており、幾通りもの読みかたができる。もちろん底本と現在の流通版のあいだには多少の潤色があるとはいえ、最古級の作品でありながらこの完成度をもっていることに、まずは単純に驚かされる。内容を細かくみていっても、文句のつけようがないであろう。たとえばかぐや姫に求婚する5人の皇子のくだり、ウソをついてごまかそうとしたり、眼の前で燃える姿をみて呆然としたり、手に入れたと思ったらただの糞の塊であったり、取りに行こうとしたら生命の危機に陥る大航海になったりと、それぞれ違った結末が待っていて、この部分だけでも物語としての完成度は相当高いといえるであろう。そのほかの部分についても、もちろん多様な読みかたが可能であり、たとえば翁の心境も、かならずしもかぐや姫寄り一辺倒ではないなど、微妙な揺れ動きがよく表現されている。このようなハイ・レヴェルの作品を、教科書で誰でも親しめる、しかも古典初学者でも気軽に読めるということは、もっと誇りにされてもよいのではないかと思う。しかも長さもそこまでではないので、人生において何度でも読み返したいと思った。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2014年9月25日
- 読了日 : 2014年9月24日
- 本棚登録日 : 2014年9月25日
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