新装版 幕末 (文春文庫) (文春文庫 し 1-93)

著者 :
  • 文藝春秋 (2001年9月4日発売)
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本棚登録 : 2003
感想 : 155
4

ときどき、無性に歴史小説が読みたくなる。今回は大好きな司馬遼太郎作品のなかから、たまには短篇をと思い本作をチョイス。表題どおり幕末を舞台にしたこの短篇集は、暗殺にスポットライトを当てた作品ばかり12篇を収録している。内容は、桜田門外の変のような有名な事件や、桂小五郎(木戸孝允)や井上聞多(馨)のような有名な人物を主題にしたものもあるが、いっぽうではじめて耳にする事件や人物も描かれており、それ自体が歴史好きとしてはまず面白かった。また、井上や桂などのエピソードも、知っているものもあったがやはり筆力が一流なので、面白く感じずにはいられない。暗殺が主題ということだが、そこには血なまぐささよりはむしろそれぞれの熱い想いがこめられており、たんなるエンターテインメントを超えた面白さがあった。それと同時に、深く考えさせられる部分もある。歴史の教科書では、桜田門外の変すらほんの数行の記述に終わり、取り扱われてさえいない幕末の志士たちも多いけれど、暗殺ひとつとってみても、そこには多くの人物のさまざまな想いが詰まっていて、複雑な権謀術数を踏まえた結果として暗殺があるのであり、そういう背景は、教科書ではけっして知ることができないので、そこまで知ったうえで「幕末」というものをあらためて考えてみると、簡単には言い表せない複雑な気持にもなる。やっぱり人間ドラマの部分が、歴史小説の最大の魅力だと思う。本作もその要素がたっぷりと含まれているという点で、文句なしの傑作である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年11月18日
読了日 : 2013年11月17日
本棚登録日 : 2013年11月18日

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