雁 (新潮文庫)

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森鴎外の作品を読む時には、いつも明治という時代背景を念頭にテーマ設定を考えてみる。
それは西欧文化に影響を受ける中での人々の心の葛藤のようなものではないか。(これは夏目漱石等の海外を知る明治の文豪に共通しているのだろう)

先日、文京区の森鴎外記念館を訪れたが、その際に鴎外がフェミニストであることを知る。娘の教育に対しても同様のことを感じた。
「雁」のテーマのひとつは、妾という旧態然の仕組みの中にあって、時代は女性の自立、自意識が芽生え始めている、その時代のミスマッチのようなものではなかったのか。
それは妾を抱える末造とその妻とのやり取りでも気付かされた。

以下引用~
女には欲しいとは思いつつも買おうとまでは思わぬ品物がある。
・・・
欲しいと云う望みと、それを買うことは所詮企て及ばぬと云う諦めとが一つになって、或る痛切で無い、微かな、甘い哀愁的情緒が生じている。
女はそれを味わうことを楽しみにしている。それとは違って、女が買おうと思う品物はその女に強烈な苦痛を感じさせる。女は落ち着いていられぬ程その品物に悩まされる。たとい幾日か待てば容易く手に入ると知っても、それを待つ余裕がない。女は暑さも寒さも世闇も雨雪をも厭わずに、衝動的に思い立って、それを買いに往くことがある。
・・・
岡田はお玉のためには、これまで只欲しい物であったが、今や忽ち変じて買いたい物になったのである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2013年1月4日
読了日 : 2013年1月4日
本棚登録日 : 2013年1月4日

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