深い疵 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2012年6月22日発売)
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感想 : 96
5

ドイツで人気の警察小説の初紹介。
オリヴァーとピアの出てくるシリーズとしては3作目。
評価の高い作品からということのようです。

ホロコーストを生き延び、アメリカで大統領の顧問にまでなった92歳の老人ゴルトベルクが殺された。
司法解剖で実はナチスの親衛隊員だったことがわかる。生き延びるために過去を偽っていたのだ。
警察署長は政治に関わるまいと、オリヴァーに部下を帰すように命令。
(えっそんなことありうるの!?と驚いていると)
何と連邦上層部からも停止命令が来る。
被害者家族は有力なコネがあるらしい。
老人の手帖に名前が残っていたヴェーラ・カルテンゼーは地元の名士で、聞き込みもすぐには出来ない。

ホーフハイム警察の主席警部オリヴァーは、名字をフォン・ボーデンシュタインという貴族。
いつもきちんとした背広とネクタイという格好で、性格も穏やか、仕事を持つ妻との間に3人の子がいて、年の離れた末っ子はまだ赤ちゃん。
妻も貴族で、その関係から上流階級の捜査も進めていくことに。
(ドイツの貴族って?イメージなかったです)

部下の警部ピア・キルヒホフは2年前に離婚、10ヶ月前に今の恋人に出会った。
元夫は気難しい性格で、よく我慢したと今になって思っている。
元夫ヘニングはフランクフルトの監察医で、司法解剖の第一人者、ピアの依頼ですぐに現場に来てくれたのだが。
オリヴァーとピアは二人とも感じはよく、事件関係者の不幸とは好対照な境遇。
ユーモアもあって楽しく読めますが~ある意味、幸せすぎて感情移入しにくいかも?というのが3作目から翻訳したための弱点ってところかな。

捜査本部も設けられないまま、オリヴァーらは困難な捜査を始めます。
老いても一家に君臨する女実業家ヴェーラ。
長男のエラルドは大学の教授で若く見え今も女性に人気があるが、母親とは不仲。
事業を継いでいる次男は、地味だが母親に尽くしている。
娘は議員となっている野心家。
トーマスはヴェーラに長年仕えた秘書だが、放り出されて恨み、一計を案じている。
ヴェーラの旧友や一家の庶子、関係する人たちの間で、連続殺人事件の様相となっていくが‥?!

次々に視点が変わる構成で、ややわざとらしいミスリードも含め、ヒントはちりばめられています。
ドイツ人の名前が覚えにくい点がなければ、重層的な構成はとても面白いんだけど。
ネレという作者名が女性とは気づかず、途中であれっもしかしてと思いました。
訳文はお見事で、登場人物の個性を生き生きととらえています。
後半でわかったことは、あまりにも深い疵だった‥
スリルとずしっと来る読後感も含め、読み応えがある作品でした!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ(未分類)
感想投稿日 : 2013年9月7日
読了日 : 2013年9月7日
本棚登録日 : 2013年8月19日

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