秋の田のかりほの庵の苫をあらみ我が衣手は露にぬれつつ
天智天皇
ご存じ、「百人一首」の1番目を飾る歌。秋の田近くの仮小屋で番をしていると、かやぶき屋根の編み目が荒いので、衣の袖は夜露に濡れるばかりだ、という歌意。
鑑賞するなら、農作業の厳しさをつぶやいた歌ではなく、むしろ、収穫の秋を喜び、晩秋の詩情を誘うような夜の光景を思い浮かべたい。
日本の農業の目安には「旧暦」が有効だそうだが、「秋分」や「冬至」などを区切りとする「二十四節気」を、さらに3等分した「七十二候」の存在も興味深い。6世紀ごろに古代中国から日本に伝わり、その後、江戸時代の暦学者が日本にふさわしいように改訂したものという。
そもそも、「気候」という言葉は、「節気」の気と「七十二候」の候を組み合わせたものだとか。季節感と日本語との、深い関係性も再発見させられる。
「七十二候」では、ほぼ5日ごとに名称がつけられており、新暦(現在の暦)11月7日から11日ごろは、「山茶始開【つばきはじめてひらく】」。つややかな桃色の山茶花【さざんか】をツバキと間違えた名称で、そういう裏事情も雑学としておもしろい。
次なる11月12日から16日ごろは、「地始凍【ちはじめてこおる】」。冷え込みの厳しくなる朝晩の、まさに実感のこもった名称だ。
ほか、秋の章では「涼風至【すずかぜいたる】」、冬の章では「虹蔵不見【にじかくれてみえず】」など、風情ある言葉に出会え、旧暦の奥深さにひかれてしまう。
(2016年11月6日掲載)
- 感想投稿日 : 2016年11月6日
- 読了日 : 2016年11月6日
- 本棚登録日 : 2016年11月6日
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