酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫 や 38-2)

著者 :
  • 筑摩書房 (2010年10月8日発売)
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感想 : 20
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酒の慾を卑しとせねば大宮の酒を酔ふまでいただきつ我は
 吉野秀雄

 二日酔いの頭で書店に入ると、目の前に、山口瞳のエッセー集「酒呑みの自己弁護」が。タイトルに苦笑しつつ、即購入。直木賞作家の山口瞳は、かつてはサントリー「洋酒天国」の編集者だった。さてさて、どんな「吞み」っぷりだったのだろう。
 ページをめくると、酔いもさめるような辛口コメントがずらり。接待酒に疑問を抱かない「社用族」批判や、そういう客をあてにする銀座高級店の質の低下、深酔いして電話魔になる酔っぱらいへの手厳しい言葉など。「自己弁護」というより、ごくまっとうな分析ばかりだ。
 山口瞳は1926年、東京生まれ。徴兵検査を受けた最後の世代でもある。自宅は戦災で焼け落ち、敗戦直前に召集。ウイスキーの味は、入営前に覚えたという。
 酒場でのけんかも多々あったそうだが、どうしても許せなかったのは、相手が戦時中に「徴兵逃れに成功した」と得意げに語り出した時。徴兵忌避には巧みな方法があり、それを自慢するように語る「インテリ」には我慢ができなかったらしい。書き方は冷静だが、青春期と総力戦が重なった運命を、酔いで紛らわすことは難しかったようだ。小説「居酒屋兆治」などを執筆後、95年に病没。享年69。

 掲出歌は、そんな山口瞳の師であった鎌倉の歌人の作。吉野秀雄も大酒豪で、長時間飲み続けるタイプだったとか。その「斃【たお】レテノチ止ム」という酔い方の描写も味わい深い。今ごろは彼岸で再会し、師弟で杯を交わしているのかもしれない。

(2013年10月13日掲載)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年10月13日
読了日 : 2013年10月13日
本棚登録日 : 2013年10月13日

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