濡れた魚 下 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2012年8月25日発売)
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本棚登録 : 131
感想 : 26
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第一次大戦後、ワイマール憲法下のドイツ・ベルリンを舞台にした警察ミステリー小説と聞き、興味津々。この時代のドイツは、敗戦と不況でとんでもないことになっていたと高校の世界史で習っただけで、詳しいことはまるで知らない(おそらく近代ヨーロッパ史を専門的に学んでる人ぐらいしか知らないのではないか?)、敗戦の痛手から、ナチス政権に変わっていくドイツに興味があるので、このシリーズには期待していた。もっとも、半面決して明るい時代の話ではないので、物語があまりにも陰で滅だったらイヤだなぁとも危惧していたのだが。

確かに、マルキスト、ナチ、帝政ロシア残党、旧軍人閥などが跳梁跋扈するベルリンは、騒然としていて決して明るい未来を予測させ得ない小説舞台だ。しかし、陰として滅ばかりの小説ではない、それはひとえに、主人公ラート警部が程よく「ええかげん」な男だからである。

酔った勢いで下宿大家の未亡人を抱き、酔いがさめたらその未亡人を邪険に扱い、ベルリン警察の仕事を世話してくれた叔父の家でしょっちゅう痛飲し、職場では惚れた女を仕事に利用して振られ、それでも未練たらしくその女を追いかけ、コカインは吸うわ、ヘビースモーカーやわ、あげく自分の失態を親父のコネと警視総監へのゴマすりでチャラにしてもらうよう媚びへつらうという…。

文体はハードボイルドで、ドイツ警察が舞台という、重厚な衣装に騙されてはいけない、この小説かなりエエ加減な連中が生き生き活躍する小説である。ただし、小説自体がエエ加減というわけではない、少々詰め込みすぎて、とっ散らかり、焦点ブレ気味の難点はあるが、しっかり警察小説である。

ホンマに暗黒ドイツと化す1936年を舞台にするまで全8作の予定でシリーズ化されるらしいが、エエ加減なC調男のラートが混迷するドイツでいかなる活躍をしてくれるのか、追いかけるのが楽しみである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説
感想投稿日 : 2018年11月5日
読了日 : 2018年11月2日
本棚登録日 : 2018年10月19日

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