うなぎ鬼 (角川ホラー文庫 た 3-1)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング) (2010年4月24日発売)
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本棚登録 : 168
感想 : 24

 じわじわと風景が浮かんでくる文章だ。生臭い匂いが漂ってくる。安穏としたバラックの並ぶ風景を見たことがないのに、頭の中ではもう黒牟が映像としてくっきり浮かんでいて、その奥にはジトッとこちらを見る人の顔が目に残る。ゆっくりと風景を描写するのが上手い。
 主人公の勝という人間は単純で前向きというバカだ。全てを信じて、裏切られると心がマグマのように憤る。それにより人も殺してしまう。純情な風を装うっているがどうしようもない人間だ。その勝を上手く使おうとしているのが千脇で、千脇はかなりやり手なようだが、読んでいる中ではどこまでが本心かわからない。汚れた仕事をしているが、それに呑まれないように自分のルールを確固たるものにしている。それは仕事のアシがつかないという利点もある。仕事の全貌が分からないので、不気味さは増している。
 この小説ではタイトルにもある、ウナギという生き物を使って何をしているのかを早めに書く。それは死体を運ばせてウナギの餌にして処理しているのではないかというもので、読みながらその粘つく怖さがどうなるのか、確かめるようにページをめくる。全てに、人間の底知れない怖さがあるので、どれが真実か分からない。
 秀が勝に、死体を処理するがウナギを食べさせてはいないと言っていた。これが本当のことなのか、少し気になる。あっさりしすぎているような。勝と同じように、読者も騙されているんじゃないか。秀の言っていたことが本当なら、千脇や秀の端々からでる情けの感情も本当だろうけど、終盤に尻すぼみして良い話にしようとしているのが少し気になったのでこんな風に思った。
 富田は嘘が育って死んだ。千脇は勝に、嘘が育つと退治できなくなって身内で処理するしかないと言っていた。この印象的な言葉を聞いて、他の話に嘘がないとは思えない。そしてその方がホラーとして面白い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年10月25日
読了日 : 2018年9月2日
本棚登録日 : 2018年9月2日

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