インビジブル

著者 :
制作 : KEMU VOXX 
  • アスキー・メディアワークス (2013年8月31日発売)
3.75
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感想 : 3

楽曲を聞いた時点でのイメージでは「何かの拍子に間違って透明人間になってしまった男の子が、それを利用して(煩悩・妄執も溌剌と)女子更衣室を覗いたりやりたい放題やろうとしたけど、それよりも気づかないところで陰口を言われていていたり実はいじめの標的になっていたことを知り、ショックを受ける。自分のことを嫌いになったけれども段々達観・楽観してそれに慣れていく。文句も少なくなって、爪を噛む悪い癖もなくなったけどやはり自分の姿と存在感なく回る世界は寂しくて孤独に耐えかね始める。最後はまたふとした拍子で姿が戻って、ああ自分は今ここにいるんだ!と実感をかみしめる」という話かと思った。
が、あとがきにも述べられていたようにこの小説は楽曲の要素の取捨選択をして“学校で苛められている草平が居場所が欲しいと願ったことで透明人間になり、街にある唯一の掟を破ったことで元の世界に戻ってくる”という筋書きになっている。「とんでもない現象どうやら透明人間になりました」から始まる楽曲とは違って、最初の100ページくらいはひたすらその草平の学校でいじめられている状態、家に帰っても唯一の家族・叔母とまともに会話できない可哀そうな状況描写が続く。なので結構重い話のように感じた。ここで回収されている楽曲の歌詞は「聞きたくなかった陰口と焼きついたキスシーン」くらいじゃないだろうか。少なくとも「万々歳は呑みこんで」は捨てられている気がする。(草平あんまり喜んでないし)
この小説の面白い所は透明街に入ってからだと思う。楽曲を聞いているときは上記のようなイメージを持っていたのでまさかこのような街の存在が出てくるとは予想外だったし、それゆえにその自由に暮らす人々の世界観に魅了された。セイジとジロウを始めとする人々の透明街での生き方、外界で活躍した調達係、里稲の超人的な跳躍の美しさなど楽曲を聞いていた時と違うイメージが描かれているのが小説として純粋に引きこまれた部分だった。
kemuノベル化シリーズに共通して出てくるマキちゃんに関しては、前作の人生リセットボタンと比較すると大分幼い口調だった。彼女の言っていた「草平のために大昔に戻ってこの街を作った」というのは他の作品で活かされてたりするのだろうか。まあマキちゃんはきっとイカサマライフゲイムで何か明かされることだろうしそこに期待をしておこうと思う。
「しゃがれた老父は笑ってた」の老父というのはおそらく葉一のことなんだと思うけど彼は随分孤独な存在だった。しかも最後まで草平に父親たる姿を殆ど見せずに現実に戻っても孤独を貫き通す選択をしていて、草平自身も彼の父の姿から何かを学び取るよりも自立していく道を選んでいる。そして物語の最後は、里稲との会話で締めくくられているので草平の透明人間からの復帰よりもそちらに目が行く。これも小説ならではの手法といったところだろうか。
この小説、確かに面白かったがオリジナリティが高く楽曲の歌詞にはそれほど依存していないのでは?というのが正直な感想だ。厳密に数えたわけじゃないがもしかしたら回収された要素よりも捨てられた要素の方が多いかもしれない。ただ、300ページオーバーの文章量と、透明街の世界観設定は非常に読みごたえがあり透明人間のファンタジー小説として読むには楽しめる作品だと思う。草平・晴香・聖の三角関係は王道中の王道だと思うし。
それにしても聖はいろいろと自分の失敗を他人に押し付け過ぎだw

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ボカロ小説
感想投稿日 : 2014年1月15日
読了日 : 2014年1月14日
本棚登録日 : 2014年1月15日

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