流水浮木: 最後の太刀

著者 :
  • 新潮社 (2013年6月21日発売)
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本棚登録 : 47
感想 : 11
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江戸中期頃、戦乱の世から百何十年が過ぎた時代、武士が武士として存続できる意味や矜持を自ら問うとなればややこしい問題とならざるを得なかったであろうと思う。実際、当時の武士がその辺をどう考えていたのか、浅学につき知らないし、調べてもほとんどわかりようもないのではと思うが、作者はそのことを軸に置いてストーリーを進める。それだけではなく、さらにその軸に絡めながら、そもそも人はその人生において何を成すべきであり、如何にその身を処すべきかまで掘り下げて話を綴っていく。

職も身分も親から子、孫へとただ無事に受け継がれることこそが尊ばれるようになった世において、登場する人物それぞれ、それをひたすら全うしようとしてきたはずが、ある時から本来目を向けてはいけないはずの、あるいは目を向ける必要もなかった、己の生き方と真正面から向かい合うことを強いられ、それぞれにその運命をたどっていく。そのきっかけとなった事件については、物語の最初からほとんど終わりの方になるまで動くことがなく、ずいぶん緩やかに話が進められるなとややもどかしい思いもしながら、読み進めることになる。最後に、畳み込むように話が進み、結末を迎えるが、振り返ってみると、しかし、もどかしく感じた部分も含めて、作者が読者に語りたかったこと全部が、この構成の中できちんと成立し、これでよかったのだな、とすっと腑に落ちた。面白かった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2017年12月24日
読了日 : 2017年12月24日
本棚登録日 : 2017年12月24日

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