魂の駆動体 (ハヤカワ文庫 JA カ 3-25)

著者 :
  • 早川書房 (2000年3月1日発売)
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 物を創る分野に関わるうちに、自分と、ひいては人間の能力の限界を実感し、ある種悟りの境地に達したのだ––––と言えばおおげさかもしれないが、それは現実世界のなかで自分がどこに位置するのか、自分の立場というものを明確に得るということだ。創造してきた者の自信と言えるかもしれない。世界そのものは変えられないにしても、世界観は自分の意識でどのようにも変化する、そもそも世界とはそういうものなのだと、子安は信じているようだ。世界観は自分で創るものであり、創ることができる、という自信があればこそに違いない。
 私は役所でずっと事務職に関わってきて、なんの創造もしてもなかった。だがそれがどうしたと子安なら言うに違いない。どんな境遇でも創造行為は可能だ、と。私はただやらなかっただけなのだ。
 同じ仕事をしていてもそこに創造の喜びを得る者もいれば、そうでない人間もいるだろうから感受性の問題なのだろう。仕事上で難しいのなら趣味でやればいいのだ。私の父がそうだった。子安の父親のリンゴ作りもそうなのだ。ヒトはなにかを創らずにはいられなくて、それができないとき、人は病気になる。
「人間モ飛行機トイウモノヲ創ッタ。物ヲ運ビタイカラデハナイ、タダ飛ビタカッタノダ」
 意識とは、かつて経験したことのない、まったく新しい事態に直面したときに、それに対処するための手順を自分で生成する能力だろう、とキリアはアンドロイドギアとの生活で、そう思うようになっていた。つまり意識というのは、用意されていないルーチン・プログラムを新たに自分で創り出す能力なのだ。ルールを創造する能力であり、想像力は意識から生まれる。人間が、物や道徳や社会を創り出してきたのは、意識というものが備わっていたからだ。いまのアンドロイドギアには、その能力がない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: SF
感想投稿日 : 2020年3月8日
読了日 : 2020年3月8日
本棚登録日 : 2020年3月8日

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