哀しい予感 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1991年9月25日発売)
3.57
  • (474)
  • (599)
  • (1409)
  • (69)
  • (12)
本棚登録 : 5129
感想 : 491
4

あるかたのレビューを見て、吉本ばななさんが無性に読みたくなりました(それはキッチンのレビューだったのだけれど)。こういう出会いに感謝いたします。
弥生19歳の初夏の物語。弥生は、時折、一人暮らしの風変りなおば、ゆきののもとを訪れる。
弥生は父母、年子の弟哲生の四人家族。絵にかいたような明るい幸せな家族だ。なのに弥生は小さいころの記憶が無いという。弥生には霊感があるらしい。これはオカルトか?とも思った。
ユーレイを見たという。お風呂でなかったはずのアヒルのおもちゃの黄色いくちばしが現れた。リアルな表現に今にも見えてきそうだ。考えてみれば年頃のころは偶然に偶然が重なったりして奇妙なことが起こったりする。そんな曖昧な記憶、人に言えないこともあった気がする。そういう微妙なかすんだ過去(誰もあるあるの)の表現がなんかいいなと思った。
そのあと、おばのゆきのが姿を消し、つかみどころのないストーリー、どこへ向かっているのだろう。私には合わないかも、と思ったのもつかの間。正彦くんが出てきて、話が真に迫ってくる。
弥生は本当の自分の生い立ちを知る。

ゆきのと弥生が幼いころを回想する。そこには温かいゆきのと弥生、両親の幸せが確かにあった。ほんの4頁が悲しすぎて(いとしすぎて)泣けた。
「その日以来、家族はもう二度と、その幸福な生活を営んでいた町に戻ることはなかったのだから」
もう、二度と。

そして弥生は、
「家へ帰るのだ。厄介なことはまだ何も片付いていないし、むしろこれから、たくさんの大変なことが待ち受けている。それをひとつひとつ私が(哲生が)乗り越えていかなくてはいけない。(中略)それでも、私の帰るところはあの家以外にないのだ。」
このセリフはそっくりそのまま私に返ってきた。
(私も)抱えるものは家族だから。

ゆきのはどうしようもなく掴みどころのない女性だけど、寂しさの中に強さを見、魅力を感じた。
弥生を愛おしむ愛情に溢れている。

感じたのは、やはり今を生きなければ、ということ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月11日
読了日 : 2020年9月10日
本棚登録日 : 2020年9月8日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする